<予告状通りの犯行> の続編です。 「悪いなイギリス、お楽しみはどうやら延期らしい」 屋根の上のフランスの、くちびるが愉快そうに弧を描く。背後に月が冷たく輝き、夜風が彼のマントを大きく靡かせた。同じ屋根の、彼から数メートル離れたところに立つイギリスは忌々しげにひとつ、舌打ちをした。こうなってしまうと捕まえる方法は相当限られるとわかっていたが、しかしなかなか良い方法がとっさに浮かばない。下の警察の動きの鈍さにイライラしながら、イギリスはとりあえず時間を稼ぐ方法を考えた。 「・・・そうか、本当に残念だ」 努めて笑みを浮かべると、フランスは俺もだよ、と気持ち悪いほどオーバーに感情を込めて言ってくる。これほどイギリスをいらつかせることができる男が他にいるだろうか。フランスは屋根の上から動かず、甘い声音で言葉を紡ぐ。青の目がとらえどころのない笑みを乗せて、イギリスを捉えた。イギリスも動かずに、フランスを見据える。 「お前ほんっと、キスは巧かったし。まあ少々愛が足りないのが難点だけどな」 「てめぇに褒められても全然うれしくねぇよ」 「相変わらず素直じゃねぇのな。俺の為に女装までしてくれちゃってんのに――すごく、かわいいぜ?」 「気持ち悪い」 気色悪い言葉を並べ立てる彼を切り捨てながら、イギリスはどうすれば良いか考えた。フランスは未だドレス姿のイギリスの、騒動の間にぼろぼろに切裂けた裾を見やって、目を細める。 「なかなかなドレスなのにもったいねぇな。まあ脚がちょっと見えて色っぽいといえばそうだけど」 「言ってろ」 「久々の逢瀬に気合ばっちりって感じか?」 「逢瀬じゃねぇよ、てめぇが犯罪してるだけだろ」 イギリスは当然のことを言ったまでだったが、フランスはその答えに面白そうにまた、唇に笑みを刻んだ。その反応がいちいち忌々しい。思ったとき、強い風が一つ吹いた。フランスの漆黒のマントと、イギリスの真紅のドレスの、ぼろぼろの裾が同じ方向へ靡いた。風に警戒したのが顔に出たのか、そんなに堅くなるなよ、とフランスが笑う。近づこうとした彼を、近づくな、と一喝した。フランスは肩をすくめておとなしく元の位置へ戻る。 「お前にしばらく会えないと思うと寂しいな」 「思いもしない事をよく言う口だ」 「そうか?嘘ならお前の方が巧いだろ」 イギリスから視線を話さないまま、フランスはゆっくりと後ろ向きに歩き続けている。気づけば先ほどの位置よりも、イギリスから離れていた。 (・・・・・・!) イギリスははっと気づいて、フランスの方へと咄嗟に駆けだした。しかし、フランスの左足は既に、屋根の端に掛かっていた。てめぇ!そう叫んだ瞬間、先ほどよりもずっと強い風が吹き付けた。 (・・・しまった・・・!!) 落ちないよう脚に力を込めるしかできなかった。ばたばたと、破れたドレスが靡いて脚に纏わりつく。目を開けようとしたが、できなかった。また、こいつを逃すのか。思ったとき、強い風の音に紛れて、フランスの囁きが耳元に届いた。 ――Au revoir,mon cher やがて、風が止まる。あたりは一転して、しん、と、静かになった。何時の間にやら胸元に薔薇が指してあった。抜き取って捨て去る。どこまでも気障な奴だ。ぎゅ、とくちびるを噛み締めながらフランスの居た方向を見やれば、――そこにはただ、鋭い形の月が冷たく輝いているだけだった。 赤 と 黒 ******* ここのサイトには珍しく英が仏に負けてる話です。大急ぎで書いたのでそのうちなおすと思う。 |