それは、太陽が燃えるように赤い夕暮れ時のことだった。


イギリスの家に泊まること数日。勝手に散歩して良いぞ、という言葉に甘えて夕暮れの庭も素敵だろう、とぶらぶら出歩いているうちに、その花園へとつなかる小道にでていた。この道をいけば薔薇園だ、言っていたイギリスの声を思い出して、きっと夕暮れどきの薔薇もきれいだろうと、日本はその道を進む。薔薇園へと続く小道を囲う垣根にも、可愛らしい、小さな薔薇の花がたくさん咲いていて、日本は思わず目を細めた。


それほど大きくはない薔薇園の手前までやってきた。古そうな木の扉を手で押して、そっと中をのぞき込み、思わず息を漏らす。ものすごい数の、薔薇、薔薇、薔薇。今を盛りに競うように咲き乱れる薔薇たちは、とても華やかで、そして艶やかだった。赤い夕陽に照らされた花園の中を見回して嘆息した日本は、その中へ入ろうとして――ーしかし、ふとその中に人影があるのに気づき、足をはたと止めた。あれは一体、と考える間もなく、影の形から誰かと誰かが口づけを交わしているのだとわかり、そしてその人影がよく見知った人のように見えて、思わず薔薇の木陰に身を潜める。


(あれ、は・・・?)


脳の中で、ひとつの幻想が巻き起こる。まさか。思って、日本は一旦息をついてから、音をたてないようにそっと中を覗き込む。そして、思わず息をつめた。花園の中、薔薇の木にうずもれるようにして口づけを受けている、その人はまさしくイギリスだった。そしてもうひとりの人影は――顔は良く見えなかったのだが髪型や背格好からして――ここから海を隔てた隣にいるはずの、彼のようであった。


真っ赤な太陽の光で影は長くのびて、薔薇たちはその色に関わらずあかく、染め上げられている。小道の奥の秘められた花園、重なった影。小説の一場面のような目の前の情景に、驚きや衝撃の前にただ、目がはなせなくなる。まるで夢でも見ているような、幻想的で官能的な空間。


苦しそうに目を瞑っているイギリスの、縋るようにフランスの二の腕をつかむ指が、とてもなまめかしい。肩がひくりと微かに震えたのが薔薇ごしに見えて、日本は息をのんだ。親愛の証というにはあまりに生々しく、そして恐ろしく情熱的なそれに、自身の頬がかっと熱くなるのを感じた。そして同時に以前兄が呟いていたことを思い出す。そうだ、確かに中国は、あのふたりできてるあるね、と言っていた。


思わずあげそうになった声を、口元にやった手で押さえ込む。こんなこと、だめだ、と思うには思うのだが、目の前の光景から目をそらすことができない。唇が離れた瞬間の、イギリスの濡れた目がうっとりと見上げる様子が、はてしなく色っぽくて、思いもよらずどきどきしてしまう。あの人があんな瞳を、するだなんて。それを見て細められた、フランスの青いはずの瞳の色が、夕日のせいか金色に光って妖しかった。フランスがなにかを囁いて、小さな口づけをゆっくりと落とし、それからその首筋に顔をうずめる。 その手が体の線に沿って、滑っていく。イギリスのからだが、ふる、と震えた。まつげもまた、戸惑うように揺れて、潤んだエメラルドが見えたり、隠れたりする。フランスがイギリスの鎖骨のあたりをそろりと嘗めて、イギリスは縋る様にフランスの背にシャツ越しに爪を立てた。いけない、これ以上は。日本は、ばくばくとうるさい心臓の音をもてあましながら、じりじりと後ずさりした。見なかったことに、しよう。見なかったことに、しなくては。固く心に決めて花園に背を向ける。イギリスの邸へと向かって走りだす。通ってきた薔薇の小道を駆け抜けながら、けれど情景は脳裏に焼き付いて離れず、ひんやりとした風があたっても、頬は、熱いままだった。たった少しの距離を走っただけなのに、物凄く息が苦しかった。






あの花園へは、それきり行っていない。





の花園































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デバカメ日本。仏英で薔薇プレイとか良くないですか(開き直り)