「お前なんか疲れてね?」


いつもの喫煙所で、いつも通りに昼休みに3人が集まって、いつも通りにそれぞれ煙草を吸っていたときのことだ。ふいにギルベルトがそう言った。


「あーやっぱり?」
「あの噂のせいか?」
「うん…さっきも授業終わってから7人くらいに囲まれて問い詰められたもん」


はぁ、と、らしくなくため息をついたフランシスは、実際以前より疲れているようだ。まあ身から出た錆だろ?ギルベルトが言うと、フランシスは、お前他人事だと思ってんだろ、とじとりとこちらをにらむ。


「何の話や」


それまでぼんやりと煙草を吸っていたアントーニョが、目をぱちくりさせながら尋ねてきた。


「あれだよあれ、例の噂話」
「例のってどれやねん」
「お前知らないのかよ。こいつとアーサーの噂」
「フランシスとあの眉毛がどうしたん?」


アントーニョはまだ何も知らないらしい。ギルベルトは噂の内容を具体的に教えようとしたが、口を開きかけたところでフランシスに手で制された。この鈍感用務員に詳しく教えたりしたら、もっと広まり兼ねないだろ。フランシスが言う。アントーニョはかなり生徒と仲が良い上に、他人の利害など全く気にしないから、ペラペラと噂を広めそうだと言うのだ。ギルベルトはまぁそうかもしれない、と思い、取り敢えず口をつぐんだ。が、アントーニョが口だけでギルに「後でおしえてぇな」と言ったので、フランシスに気付かれないように小さく頷く。


「…でもお前らって別にそんなんじゃないよな」
「今はね」
「今は…って昔はそんなんだったのかよ!」
「昔はほら、なんか若かったし、…うん」


まぁ若げの至りってやつだよ。フランシスは目の前の花壇に植わったトマト(アントーニョが育てているやつだ)を遠い目で見つめながら言った。実際のところあの噂は根も葉もないものだと思っていたギルベルトは、なんだか裏切られたような気がしてきて、


「やっぱ身から出た錆じゃねぇか」


とつぶやいた。