「あなたたち、ここがどこだかわかっているのですか!?」 今日ここでちょっと飲んで行ってもいいか?他に良い場所がないんだ、頼むよ。お前も一緒に飲むだろ、良いワイン持ってきたし。やたらと遠慮がちなフランシスの声を聞いてから、嫌な予感を感じていなかった、といえば嘘になる。しかし、共に歓談するのも音楽のためにも良いだろう、と思った上、よもやここまでとは思わなかったので、ローデリヒはあまり深く考えずにOKを出してしまったのだ(さすがに自分は参加しようとは思わなかったが)。そのことを、今、彼は後悔しても後悔しきれなかった。何枚ものドアを通り越して聞こえ漏れる騒ぎに、ついに堪忍袋の緒を切らしたローデリヒが部屋の扉を開けると、そこには仲良く四つ並んだ楽器ケース。とりあえず楽器が無事なことに安心してからその奥へと歩を進めれば、そこはもはや、宴会場という名の戦場だった。 「あー、聞いてローデリヒさーん、ルートがねー、歌がすごく上手いんだよー!」 終わりを迎えようとする宴会独特の気だるげな雰囲気の中、最初にへにゃへにゃとした笑いを浮かべながら絡んできたのは、フェリシアーノだった。さっきカーロミオベン歌ってくれたんだー、すっごい上手いんだよ!ローデリヒさんも聞いてー!!あ、ワインいる?フランシス兄ちゃんが持ってきた奴だから美味しいよ!チーズもあるんだよー!かんぱーい! 全く繋がりのないを言葉をぽんぽんと放り投げ続けるフェリシアーノ。いつも以上に訳のわからない彼の、その言葉を適当に聞き流しながら、部屋を見渡した。散乱する食べ物と酒類。いつもは止めに入るはずのルートヴィッヒが、ソファに寄りかかって、ビール瓶片手にまたイタリアの歌を歌いだしている。フェリシアーノがうわーまた歌ってくれるのー!!と拍手した。全くついていけない。 更に部屋の奥へと目をやると、テーブルを挟んで椅子に腰掛けたフランシスとアーサーがなにやら議論をしている。フランシスは自慢のワイン、アーサーは生温いビールを手に、やたら真剣な面持ちだ。フランシスの好きな政治の話題だろうかと思ったが、聞いてみれば、 「だから、×××は×××が×××なのがいいんだって!」 「お前ぜんっぜんロマンっつうもんがわかってねぇな、×××は×××に決まってるだろ?」 耳を塞ぎたくなるような下品な話に花を咲かせている。更に、 「もーお前本当意味わかんねぇ!いみわかんねぇお前にかんぱーい!」 「おっいいなそれ!かんぱいー!」 話の流れもなにもなく、唐突に乾杯をしたかと思うと一気にそれぞれの酒を飲み干し、ふたりしておもむろに立ち上がった。何をするのかと見れば、ルートヴィッヒの歌に合わせて踊りだす。酒臭い男同士が体を寄せて踊り、フランシスが女性パートで華麗にくるりと廻ってみせたというだけでもローデリヒとしては目を逸らしたいのに、輪をかけて、やけに複雑なステップなのが気味が悪い。 「・・・・・・・」 あまりの惨状を目の前に、思わず立ち尽くしたローデリヒは、やがて、ひとつ、大きく呼吸をして、 「・・・いいかげんにしなさいー!!」 叫んだその声は、しかし、ルートヴィッヒの歌声とフェリシアーノの歓声、フランシスの笑い声と、アーサーがふらついて瓶を蹴っ飛ばした音に掻き消されたのだった。 楽しげに、 こいつら全然楽器ひいてない(笑) そして独伊と仏英はまた分離・・・ |