注:仏と英はできてるよ!

















「いやだからさあ、本当すごいんだって渋滞が!」


助手席のフランシスが必死になって携帯電話に向って叫ぶのを聞き流しながら、アーサーは、苛立ちを抑えるようにハンドルをとんとんと叩いていた指の動きを止めた。ちらりと腕時計を見やる。約束の時間は10時だった。そして今は11時半、ちょっと前。ここはどこか、といえば、住まいと約束の場所の中間地点あたり。フロントガラスの向こうには、延々と続く車の列。


「わかってるけどさ、これだけはどうしようもないだろ!?」


「だから電車だと絶対遅れるって思ったから車にしたんだって!なんか電車止まってるらしいんだよストだか事故だかで!」


「え?お前は普通に電車でついたって!?こっちの方面だけが止まってるんだよたぶん!たぶん!!ありえなくなんかないって世の中にありえないことなどないってなんか有名な人が言ってたじゃん!」


携帯電話から、ルードヴィッヒの怒号が漏れ聞こえてくる。それに対し言い訳するフランシスは笑えるほど必死だ。元はといえば、フランシスの所為なのだから、これくらいはしてもらわなくては困る。それにしても、あまりに一生懸命なそのさまに、こんな状況なのにもかかわらず、アーサーはちょっと笑いそうになった――のだが、


「決めたのはアーサーだから!俺じゃないから!」


その声に、アーサーのかすかに緩ませた頬が引きつった。フランシスはかまわず、なにやらいい訳を続けている。だってチェロがつぶれるとか言い出すもんだぜあいつ!そうならないためのケースだっつうの!!しかもその前に貧弱なお前のことだから肋骨が折れるだろって話だよなあ!?何時の間にやらアーサーの悪口を言いはじめたフランシス。アーサーは問答無用、とばかりに、トリコロールのストラップのついたフランシスの携帯電話をぶんどった。





******





『いいか今大幅に遅れてるのは他の誰でもない、フランシスの×××の所為だ!』


急にフランシスの声が遠ざかったかと思うと、次の瞬間、アーサーの耳にするのもおぞましいような下品な言葉が耳に届いていた。


「・・・は?」


一瞬頭が追いつかず、間の抜けた声をあげてしまう。その間に、フランシスの『あっちょっ運転しながら携帯で話すとつかまるんだぞ返せ』とか何とか言っている声が聞こえてきた。


『とにかく!あと数十分でつくと思うからもう少し待ってくれ。怒りはフランシスにぶつけろ俺の所為じゃない何もかもがこいつの所為なんだからな!』


「・・・・・・」


叫ぶアーサーの声が、電波の所為か、少し、かれている。それとも風邪でもひいたのだろうか?よくわからないが、とにかく2人が責任をお互いに押し付けあっているのはわかった。しかし、それがわかったところで、ルードヴィッヒの怒りは冷めやらない。多少ならいつものこと、で我慢もするが、こう何時間も遅れたのでは誰だって腹が立つだろう。それも今日で三回連続だ。


『大幅に遅刻したのは悪いとは思ってる。出来る限り急ぐし、夕飯はフランシスがフレンチのフルコースを奢るっつってる』
『はぁ!?』


受話器の向こうで、フランシスが情けない声をあげたのが聞こえる。


『悪いなこいつが馬鹿だから!じゃあまたあとで!』
『ちょっ今の・・・』


アーサーの声にフランシスの声が重なりかけたところで、ブチっという音。ルードヴィッヒははっとして、電話に向って叫ぶ。


「おい、お前ら・・・!」


しかし時既に遅し。通信が途切れ、ルードヴィッヒの耳にはツー、ツー、という無機質な音が届く。


「・・・・・・」


怒りがふつふつと湧き上がるのを感じる。あいつら着いたらただでは置かない。遅刻は30分以内にする旨誓約書に書かせよう。遅刻したら罰として部屋の掃除だ!早速今日から!!ルードヴィッヒは心に決めながら、続いて先ほど電話の通じなかったもう一人のメンバーに再び電話をかけるべく、携帯電話のボタンを押した。


未だぬくぬくとベッドにもぐっているフェリシアーノの携帯電話に、ルードヴィッヒの怒声が届くまで、あと数十秒。












con brio
生き生きと、











遅刻ネタ2.別にそのつもりはなかったのに、仏と英ができていた・・・