さて、私が部屋を提供しているカルテットなのですが、実力者揃い、個性派揃い、といえば聞こえは良いものの、実際のところは変人の寄せ集め、と評した方が良い、そんな感じの集団なのです。 彼らは今、ちょうど休憩をしているようですね。少し、様子を見てみましょう。 まず、向かって左端、鼻歌混じりに楽譜を見ている彼は、ファーストバイオリンのフェリシアーノです。彼は本当に音楽が好きなのでしょう、とても愉快そうに、そして表情豊かにバイオリンを演奏します。軽やかで華やかなあの音色は、聴いていてこちらも楽しくなってしまう程です。まあ、実生活のほうはいろいろと大変な子なのですが。その点ドイツには同情を禁じ得ません。あ、そういえば、彼はよくイタリアの歌を歌っていますが、とても上手なのですよ。 その右ではセカンドバイオリンのルードヴィッヒとビオラのフランシスがまた、何か論争を繰り広げています。この2人は音楽に対する考え方というようなものがまるで正反対、と言っても良いほどに違っていますから、論争になってしまうのも仕方ないのかもしれません。ルードヴィッヒは生真面目な性格だけあって、演奏もやはり生真面目です。ひとつひとつの音の重みはさすが、という感じですが、確かに少し堅苦しすぎるかもしれませんね。けれど日頃散々にしりぬぐいをさせられているフェリシアーノとの息はぴったりです。フランシスは何を考えているのかさっぱり理解できないのですが、ビオラの腕だけは確かかと思います。ただ、たまにその低音が妙にいやらしい音色に聞こえないこともないのですが。楽器を演奏していないときは女学生に手を出してばかりいるそうで、全くふしだらな男です。 一番右端でルードヴィッヒとフランシスの口論に大仰にため息を吐いた彼はチェロのアーサーです。彼と、ビオラのフランシスの仲の悪さは有名で、よく殴り合いの喧嘩などなさっているそうですが、いざ演奏し始めると相当に息があっているので、不思議なものです。彼はああ見えて、というのも失礼かもしれませんが、メロディーを弾かせれば日頃の姦しい様子を忘れさせるかのように美しく弾きますので、やはり実力はそれなりのものなのでしょう。フェリシアーノの天真爛漫な弾き方にもちゃんと合わせているようで、自分勝手なように見えてそこそこの協調性はあるのではないでしょうか。 練習室では、先ほどのため息を聞き逃さなかったフランシスとアーサーがまた喧嘩を始めそうです。フェリシアーノはルードヴィッヒに向かって、仲良くて良いね、などと言っているようですが、相変わらず空気の読めない男のようですね。 さて私はそろそろ部屋に入って、フランシスとアーサーが本格的に臨戦態勢に入る前に練習を再開させようかと思います。彼らはかなりおかしな人たちですが、それでも演奏だけはなかなか楽しめるかと思いますから、機会を見つけて聴きにいらしたらいかがですか? 墺視点。 |