飛行機ではるばるアメリカ大陸からド・ゴール空港まで飛び、その後殆ど休む間もなく、イギリスの運転する車に揺すられる(彼の運転は結構荒いので「揺すられる」あたりが一番あっている表現だ)こと数時間。信じられないような強行スケジュールの長旅の末、やっと目的地にて車から降ろされたとき、カナダはあたりの光景に思わずぽかんとしてしまった。今を盛りとばかりに輝く太陽、その光を受けてきらきら光る海、頭上のターコイズ・ブルーの空。勿論自分のところの景色だって負けてはいないと思うが、それでもさすが、としか言い様のない素晴らしい風景だ。さらに目の前にどどんと建った大きくて清潔な「別荘」は、ここでしばらくの間のんびりと過ごせるのだ、と考えるだけで、カナダの胸をわくわくさせる代物だった。アメリカも、予想以上の景色にびっくりしたらしい。すごいじゃないかフランス!と興奮を隠しもせずに、はしゃいでいる。率直に褒められたフランスは、まぁな〜といつものあのによによとした笑みを浮かべた。


そんなふうに建物の外でもたもたしているカナダたちをよそに、以前に二回ほど来たことがあるらしいイギリスは、さっさと車を車庫に入れ、さっさと自分の荷物を別荘の玄関まで運んでいた。そして玄関から、


「おいフランス、鍵。あとアメリカ、お前はしゃぎすぎんなよ!ガキじゃあるまいし」


と言う。頼まれた(?)フランスが何やら嫌味を言いながら、鍵をイギリスに投げ、お小言をもらったアメリカが、すかさず文句を返す。イギリスはそのどちらにも怒鳴り返した。こんなところまできても、みんなは変わらないようだ。


そんなみんなの声を遠くに聞きながら、ぼんやりと景色を眺め、そういえばこうして四人でのんびり過ごすのは初めてなんじゃないか、とか、それにしても素敵なところだ、とか、これは是非くま三さんにも見せたかった、とかそんなことを思っていると、


「おいカナダ、お前もさっさと荷物運べよ」


フランスが別荘に入るドアを閉める間際にそう言った。言われてはたと回りを見渡すと、砂浜にぽつんとひとり取り残されていたので、カナダはびっくりしてしまう。いつの間にか、イギリスもアメリカもフランスも荷物を運び込んだらしい。


「もう、皆せっかちだなぁ」


もっとこの素敵な景色を楽しめば良いのに。自分の荷物をえっちらおっちら運びながら、つぶやいたカナダの一言は、広い広い空に吸い込まれていく。こうして、彼等のバカンスは始まったのだった。