ランチをすませた後はたいてい、各々が好きなことをするのが習慣になっていた。アメリカと、アメリカに引っ張り出されたフランスは、海辺に遊びに行った。海までは別荘から歩いて20歩ほど、テラスから直接出て行ける。ふたりは浜でビーチバレーをしているらしく(アメリカはここにきてからビーチバレーにはまった)、疲れ果てよろよろしているフランスと、まだまだ元気を有り余らせているアメリカが、たっぷりと太陽の熱を吸い取った砂浜で何やら騒いでいるのが窓から見える。


「ちょ…もーまじギブギブ!頼むからちょっと休ませて…!」
「もうかい?昨日のイギリスもだけど、君達体力なさすぎるんじゃないかい?」
「お前がおかしいんだよ、お前が!」


そんな会話が潮の音をバックに聞こえてきた。カナダはダイニングで本を読んでいて、今ちょうどクリスティーを一冊読みおえたところだ。ここはもとはフランスの別荘だが、アメリカが持って来た漫画や、イギリスが持ち込んだ探偵小説、それからフランスがもともと持っていた本などなど、何しろたくさん読むものがあるのだ。隣りではイギリスが肘掛け椅子に腰掛け、刺繍をしている。彼は昨日アメリカにつきあってビーチバレーをしたためにすさまじい筋肉痛に襲われているそうで、今日は全く動きたくないらしい。まだ疲れがとれないのか、針の運びも心なしいつもより遅かった。


「ふん、あれであのヒゲも俺と同じ目にあうな」


先程のフランスとアメリカのやり取りを聞いたのだろう、イギリスは刺繍の手をとめ、心底楽しそうにそう言った。今朝、フランスに筋肉痛を散々馬鹿にされたのを相当根に持っているようだ。そういえば、とイギリスが言う。


「カナダは筋肉痛にならなかったのか?」


おととい、カナダがアメリカのビーチバレーにつき合わされたときのことを聞いているらしい。


「まぁ、ちょっとは。でも、大したことはなかったです」
「若いな…」


でも、俺はまだ次の日にきてんだから良いよな。あのヒゲ絶対明後日だよ筋肉痛くんの。


そんなことをつぶやくイギリスにどう返事をして良いのかわからず、取り敢えずカナダは、次に読むルブランをぺらりとめくった。