胸をときめかすように情熱的なキスも、熱っぽく甘い囁きもないままに、いつもそれは終わる。 ベッドで煙草吸うなよ。寝転がって火をつけようとしていたイギリスから、フランスはライターをぶんどった。フランスの声にイギリスは一瞬非難するような目をフランスに向けたが、やがて、はぁ、と盛大に溜め息をついて、よろりと起き上がる。緩慢な動きでベッドから降りて、古びた板張りの床をはだしのまま移動した。ベッドの斜め前、壁に向って置かれた椅子と机まではほんの数歩。いつからあるのかわからないこの宿と同様に年月を感じさせる木製の椅子を、イギリスはぞんざいに引いて、どさりと腰掛けた。フランスはその姿を目で追いながら、自分の煙草を取り出して火をつける。ライターをポケットへしまおうとしたフランスの方へ、ずい、とイギリスの腕がのばされた。火、と一言だけ言う。 煙草に火がついたのを確認してから、イギリスはその机に肘をついた。身を机にもたれかからせるようにして、長い溜息を吐く。それから煙草の端を咥え、大して美味くもなさそうに吸った。くちびるの隙間から立ち昇る紫煙を、その双眸は見もしない。 彼は裸の肌に真っ白なシャツをまとって、脚を組んでいた。開いた襟の間から赤黒い欝血の痕が覗いているのも、煙と溜息を同時に吐き出す仕草も、どこか憂鬱げに色めいていて、そんな姿にフランスはふと笑みを漏らす。 「色っぽいねお兄さん?」 揶揄するような声。けれどそれに対して彼は、けだるげにフランスのほうを見やっただけだった。ひとかけらの熱もなく、ただただ生温い視線。机に置かれたランプの、安っぽく黄色い灯の中に見たそのひとみは、さきほどベッドで最後に交わした、あのキスと同じ温度をしている。 もうちょっとくらい情熱的な振りできないのかよこの眉毛。思ったけれど、考えてみれば、この少し前にあった行為も、義務のように煙草を吸うイギリスのその仕草も、そしてそれをぼんやりと見続けていた自分も、何もかもがこの生温い温度をしていた気がする。それ以上でもなく、それ以下でもない。ひたすら、体温と同じくらいに生温い。 (結局これが俺たちの適温ってことか) 思いながら、フランスは自分の煙草を吸った。美味くも不味くもない。この煙草の先端を焦がす火さえ、ひょっとしたら生温い温度しか持っていないのではないか。己の吐き出した煙を見詰めながら、フランスはそんなことを考えた。 ******* ずーっとまえの拍手文を改訂。なんかいろいろくみとってやってください・・・。 |