ちょっといつもよりえろす。でも大したことありません。











シャツの上からそこを食むと、イギリスの息があからさまに震えた。唇から漏れる息が不埒な熱を孕んでゆくそのさまは、フランスを何よりも良い気分にさせて、だから彼はしつこくそれを繰り返す。すぐに、シャツのその部分だけが濡れて、赤が透けて伺えるようになった。いかにもいやらしい。それを口に出して指摘すると、そこはさらに確かな反発を、フランスの舌に返した。イギリスの方を見上げれば、彼は眉根を寄せて、やや浅い呼吸を繰り返している。


(愛、ってなんだっけ?)


脳内に突如、ぽっかりと、そんな疑問が現れる。それをどこか冷静に認識しながら、手をシャツの中にもぐりこませて、脇腹から腰骨までをなぞった。イギリスとのこうした瞬間は、フランスの中の愛の定義をいつも揺るがす。それは、確かに今、「愛を作」っているはずなのに、目の前にいるのがこの男であるからか。


考えながら、もう一度、熟れた赤を食む。舐めあげて、歯を立てて、その反発を愉しめば、イギリスがたまらないとでも言うように、ぎゅ、っと瞳を閉じた。目尻に涙が滲んでいる。濡れたくちびるを強く噛み締めた。これは彼の癖だ。どうせ直ぐに、そのくちびるからあえかな声が漏れはじめる。そのことを嫌というほどに知りながら、けれど今日、何故かフランスはその目を見ていたかった。目、開けろよ。そう言った自分の声に、思った以上に欲が滲んでいて、自分で驚く。彼がうっすらと瞳を開けた。潤んだ緑に見え隠れする色情。それを見て、おかしな安堵を感じる。手を彼の背にまわす。熱かった。彼の肌も、自分の手も、酷く。それを感じて、そしてあの疑問が再び、フランスの脳に姿を現す。


「なぁ、」


イギリスを見る。濡れた緑が、フランスを見下ろした。睫に涙が煌いている。ん、だよ。イギリスが赤い頬のまま、言った。


「愛って、なんだっけ?」


けれど、それまではもっともな質問に思えたそれが、声にしてしまった途端に、軽々しく薄っぺらで、甚だ馬鹿馬鹿しいものに思えてきた。案の定、イギリスは、一瞬の間の後、そのあかいくちびるでわらった。心底おかしそうに、フランスを嘲るように。


「、取り敢えず、…今ここには、ないもんだろ、」


違うか?掠れて濡れた声で言う。いやらしさに塗れた声、それなのにどこか高潔だった。こんな声を出せる者を、フランスは彼以外に知らない。


「―――ごもっともで」


そう返しながら、馬鹿な質問をしたと、自分でも思った。そうだ、愛がこんなところに存在するわけがない。ここにあるのは、ふしだらで放蕩な、個々の欲だけだ。自分本位で、相手を思う気持ちなんて、きっとひとかけらもない。あるのはただ、利害の一致。こんなにも愛し合って居ない、目の前のひたすら憎たらしい隣人と自分とを共に苛む熱に、これほどぴったりの説明などほかにないじゃないか。


理屈はそれで合っている。そう、フランスは口の中でつぶやいた。理屈はそれで合っている。彼の目尻に浮かんだ涙を、そう、こんな風に、あくまでも優しく拭ってしまうのも、彼がどうしようもなく期待を滲ませた瞳で、熱っぽくこちらを見詰めるのも、からだと脳味噌がこんなにも熱くとろけだしそうなのも。―――なのに、喉に刺さった一本の細い棘のようなこの違和感は、一体何なのだろう?


イギリスはフランスの質問を、閨事の合間の戯れの一言として受け取ってくれたらしい。はやくしろよ。熱っぽい声以外、殆どいつも通りに彼は言って、シャツのボタンを自ら、けれどいかにも面倒そうにいくつかはずした。熟れきった赤の鮮やかさに、此れまで考えていたことが全て、脳内に拡散する。


(・・・やーめた)


誘いかけてくるその赤に、フランスは意識を集中させることにした。

















愛の彼岸
















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たぶん兄さんはちょっと気づいてる。イギーは全く気づいてない。という話でした。にしてもイギリスあばずれすぎですね!(笑)タイトルは、友人が考えてくれました。本当にありがとう!!!