子仏英です











イギリスは腕の中のうさぎを抱き締めながら、忌々しげに側にある木の根元を睨んでいた。何故そこを睨むのかといえば、理由は簡単で。そこには、もたれかかるようにして眠り込んでしまった、フランスの姿があったからだ。


(なんでこんなとこまで来て寝てんだよバーカ!)


心中でそう罵りながらも、イギリスはどうしたら良いのかさっぱりわからず、うさぎをもう一度、ぎゅっと抱き締める。


考えて見れば、逆の状況になったことは多々あれど、フランスが寝てイギリスが起きているという状況になったのは初めてで、しかもイギリスが寝てしまっていたときにフランスが何をしていたのかを、イギリスは知るはずもない。イギリスが知っているのは、心地よいまどろみから目覚めたときに、フランスがいつもの憎たらしい表情ではなく、にわかに信じがたいほど大人じみた瞳をしているということだけだ。


(このスットコバーカ!)


もう一度、心中で罵る。イギリスはそれからしばらく、ちらちらと木の方を見たり、再びうさぎを撫でたりを続けていたが、結局うさぎを地面に降ろして、おずおずとフランスに近付いた。そうする以外にどうすれば良いのかわからなかったのだ。


フランスは、イギリスが近付いても、眠ったままだった。いつもいたずらっぽく笑っている瞳――けれどときたま、どきりとするくらいに優しい表情を浮かべる瞳――は今、安らかに閉ざされている。睫毛の影が頬にかかっていて、イギリスは初めてその長さを知った。くたりと力の抜けた、己のそれよりもずっと長い手足。木漏れ日がやさしく、彼に降りかかっていた。忌々しくも見つめずにはいられないあの金髪が、ふわりと頬の稜線にかかる。


(…こいつって、こんなに、)


思ってしまった瞬間、ぼっと音がするほどに頬が熱くなる。何考えてんだ俺!べっ別にこいつに見惚れてたとかそんなんじゃない死んでないか確認してただけだ…ていうかこんなとこで寝る方が悪いんだからな!俺は何も悪くないしこいつの寝顔の間抜け具合を見てやっただけなんだからな!


脳内で、誰に対しても何の意味もなさない言い訳を並べ立てる。心臓はまだ、ばくばく叫んでいた。火が出せるんじゃないか、という程の顔の熱さも収まらない。イギリスはフランスのいる木の側から転がるように逃げだした。うさぎがそんなイギリスを見て、不思議そうな目をしているような気がする。


「………」


さすがにひとりで慌てている自分が馬鹿らしくなってきて、イギリスは、すう、と息を吐いて、少し気分を落ち着かせた。熱い頬に、森を通ってきた風が涼しい。遠くで鳥がぴぃ、だの、ちぃ、だの鳴いている。もう一度、ちらりとフランスを見た。まだ眠りこけている。この間抜けロン毛野郎め。イギリスは心中でまたも、そう罵った。


(…でも、)


風で金の髪が靡く。触れると柔らかなそれに誘われるように、イギリスは再び、フランスの側へと近付いていった。奇跡のようにきらきらと光るあの青色は見られないけれど、寝顔のやさしい表情を、じっと見つめる。


(…もう少しだけなら、)


目の覚めたフランスが、側で眠っているイギリスを見つけるのは、もう少し後のお話。









Sleeping Beauty
















*******

私はベタ展開が大好きだ!
昔の仏英はまじでやばい。んでもって昔の兄さんの美しさは無敵。