一般人の女性がちらっと仏の元恋人的に出てきます。ご注意!















きゅぽん、と香水瓶のふたを取れば、甘ったるくて濃厚な、女の匂いが立ち昇ってきた。


ああそれな、ジョゼが置いて行ったやつ。


ちょうど寝室に入ってきたフランシスが、鏡台に腰掛けたアーサーを見て、さらりと言う。アーサーから瓶を取り上げた。手であおいで、匂いを確かめる。


良い匂いだよな


フランシスは何の感慨もなさそうに、そう言った。それから、つける?と提案してくる。アーサーは女物だろーが、とつっけんどんに返したが、そのときには既に、フランシスがアーサーのすぐ後ろに立っていた。


お前には似合わないだろうな


そう言いながら、彼は甘ったるい匂いを放つ香水に濡れた指先を、アーサーの耳の後ろに這わせる。ひやりとした感覚。なにすんだよ、と言いながらも、彼は大した抵抗をしなかった。己の首筋から漂う女の濃厚な匂いが、アーサーを不愉快にさせる。そんな彼を楽しげに見つめたフランシスが口を開く。


良い女だったよ


ジョゼとやらのことらしい。情熱的だった。ファニー、愛してる、愛してるの、って毎晩言われたな。


そう言ったフランシスと、鏡の中で目が合う。その青が意味ありげに細められた。その香水の匂いを身体中からさせながら、かたく抱き付いて着たぜ、と彼は続けた。


(――お前にもできる?)


細めた青がそう問い掛けていた。どの表情がアーサーの負けん気を引き出すのに一番良いのかを知っていて、その上でこんな風に彼は笑っているのだ。そしてそうだとわかっていても、アーサーは黙ってこれをやりすごすことができない。アーサーは、ふぅん、と興味なさそうに返しながら、鏡台の椅子から、ゆるりと立ち上がった。背後のフランシスを振り返る。その拍子に、つけたばかりの香水がふわりとあたりを漂う。


…こんな風にか?


アーサーはフランシスの頬を愛しげに撫でて、それから吸い寄せられるようにくちびるを寄せた。くちびるが彼のそれに触れる直前に、愛してる、ファニー、とアーサーは囁いた。できうる限り最高に情熱的な吐息で、香水に負けないくらい甘ったるく。それを聞いたフランシスが、忍びわらう気配がしたが、無視してくちびるを重ねる。息苦しいほどの口付けだった。体温が上がって、香水がより濃厚な匂いを発しはじめたような気がする。


微熱が燻る身体を名残惜しく離すと、フランシスが吐息だけでわらった。強く抱き寄せられ、掻き抱かれる。俺も、愛してるよアーティ。誰よりも。香水よりも甘ったるい声が耳元で発せられ、鼓膜を切なく震わせる。香水の匂いと声とが、アーサーを酩酊させた。潜り込んで肌を巡る指先は性急で、情を急きたてるかのような熱さを持っていた。


ふたりしてなだれ込んだベッドのシーツには、あまいあまい香水の匂いと、劣情が染み込んだ。













INSOLENCE
アンソレンス

















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ジョゼ(仮)を出した意味が全然伝えられてない気がします・・・そしてまたいつものパターン(^o^)
題名にこんなに迷ったのは久しぶりでした。ゲランの香水から。