運転席でハンドルを握るアーサーが、眼前に続く一本道をつまらなそうに見つめながら、左手でカーステレオを弄った。それまで流れていた甘ったるいシャンソンが、急にパンクロックに変わる。一瞬にして様変わりした音楽に、アーサーの隣り、助手席で地図と睨めっこをしていたフランシスが面食らったようにアーサーを見た。ちょっなんで急に変えるんだよ良いところだったのに。もう飽きたんだよ、ねちっこいシャンソンには。俺はこっちに飽きてんの何いってんのかわかんないんだもん。知らねぇよ誰が運転してやってると思ってるんだ。誰が案内してやってると思ってんだよ。一本道じゃねぇか。云々。


いつも通りのやりとりを始めたふたりから目を離す。隣りに座るアントーニョは、ああまた始まった、とでも言うような顔で、景色を眺めていた。


最初にその計画を思い付いたのはフランシスだった。それを彼はテスト前最後の講義の時間に、アントーニョに筆談で伝えた。レジュメの端に書かれたその言葉を見てアントーニョは瞳を輝かしてフランシスを見つめ、ふたりは講義中にハイタッチ。ふたりじゃ寂しいからという理由でギルベルトを巻き込み、いざ出発、という段になって彼らは移動手段をもっていないことに気付いた。徒歩も良いがさすがに疲れる。自転車も右に同じ。電車も良いが、ロマンがない。あれこれ考えた結果、フランシスが思い付いたのが、アーサーの車を本人ごとハイジャックすることだった。夏休み開始二日後の夜、作戦決行。題して酔いどれ作戦。まんまとだまされたアーサーは、不本意ながら一行に加わることになった。車付きで。


出発したのは次の日の昼だった(アーサーの酔いが醒め、そして了承を得るまでに、やたら時間がかかったのだ)。最初こそ、あたりには家やらビルやらが群がっていたものの、少し経つとまばらになり、そしてついには建物一件見なくなった。そうして今にいたる。周りがこの景色になってから、何時間が経っただろう。地平線のかなたまで、文字通り果てしなく続く一本道。先程と寸分も変わらない土色の景色。青い青い空。


「おい、本当にこれで大丈夫なのか?」


最初こそノリノリだったが、あまりに変わらない景色にさすがに心配になってきて、ギルベルトは言い争いをしているアーサーとフランシスに問う。喧嘩に夢中なふたりが気付くまでに、三回呼ばなくてはならなかった。ようやく気付いたアーサーは顔をしかめて、隣りで地図を広げるフランシスを指す。


「知らねぇよ。こいつに聞け」
「いやたぶんこれであってるはず。たぶんだけど」
「随分適当だな」


フランシスの声に、ギルベルトが思わずそう言うと、


「別にそんな心配することないやろ」


返ってきたのは脳天気なアントーニョの声だった。お前変なとこで心配性やなー。言って、


「なんとかなるなんとかなる」


からからと笑う。そんなんで良いのか、とギルベルトは思ったが、前に座るアーサーとフランシスも、アントーニョの言葉に異論はないらしい。迷ったら迷ったでそのとき考えれば良いだろ。はなっからこいつの案内なんて頼りにしてねぇよ。何変な心配してんだか。アーサーが言った。と、フランシスの右手がカーステレオを弄った。


再びシャンソンが車内に流れ始める。不毛な論争を再開した前方ふたりの声を聞き流して、ギルベルトは釈然としないながらも地平線を眺めた。何にしろ、まだまだ道のりは長そうだ。好奇心と期待と、いくらかの不安を乗せて、車は大空の下を走る。







目的地は、夏











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ギルの性格が全くわかりませんorz
コンセプトは映画みたいな大学生の青春。