数日間続いた今年の文化祭が、終わった。


すっかり日の暮れた秋の夜。後夜祭の興奮した雰囲気はいまだに醒めやらず、がやがやと生徒たちが騒ぐ声は絶えない。振替休日が終われば再び日常の舞台となる校舎は、いまはすっかり忘れ去られているようだ。


そんな校舎に、ぽつりと灯のともる部屋がひとつ。


「…やっぱりここか」


がちゃりという音と共に、その部屋――生徒会室に入ってきたのは、フランスだった。こんな夜にも関わらず、いつもと同じように机に向かっていたその人、イギリスは、フランスの声に机から顔をあげる。


「こんな日も仕事か?」
「仕方ねぇだろ、後始末が終わってないんだから」


ため息まじりに告げれば、フランスは、ご熱心なことで、と呆れたような、馬鹿にしたような表情で言う。相変わらずいちいちむかつく野郎だ。イギリスはそう思ったけれど、この数日間の間に、けんかを吹っかけるのが面倒なほどに疲れが溜まっていたので、仕方なくもう一度、息を吐く。


「何しにきたんだよ」


からかいにきたんだったらさっさと帰れ。再び机に目を落としながらイギリスは言う。新しい書類に目を通そうとして、しかしその瞬間に、打ち上げしようぜ、という声が耳に届いた。


「…は?」


何を言っているのか理解できず、再び顔をあげたイギリス。フランスはイギリスのいぶかしげな表情に構わず、持参してきた瓶を片手にウィンクしてくる。いちいち気障な奴だ――思ったけれど、それ以上に、手の瓶が気になる。


「…ワイン?」
「そ。俺の秘蔵っ子」


お前のために開けるのもったいないけどな。そんなことを言いながら、フランスは、生徒会室備え付けの棚から、グラスをふたつ取り出し、手近にあったテーブルに置いた。馬鹿なこといってんじゃねぇよこの仕事をはやく終わらせなくちゃなんねーんだよ。イギリスがつきあう前提で用意を進めるフランスに対し、またも文句が胸の中に生まれる。


「やるならひとりでやれ」


イギリスはそう言い残して、また書類に目を落とした。フランスはそんな態度にも構わず、準備を続けているようだ。書類を再び読み出すと、瓶を開けたらしい音がした。続いて、ふたつのグラスにワインを注ぐ微かな音も。


「ほら」


間もなく、グラスがひとつ、イギリスの机にことりと置かれた。


「…いらねぇっつってんだろ」
「本当にいいのか?」


フランスはこれみよがしに、自分のグラスをくゆらせた。匂い立つ葡萄酒の香りに、うん、上出来だ、と言って、そのまま視線をイギリスに滑らせてくる。


「いいのかー?とっておきの一本だぞ」
「…」
「今日のために大事にとっといたんだけどなぁ」
「…」
「しかもどっかの誰かが好きなブルターニュ産」
「…」
「それとも生徒会長様はせっかくの一杯にも付き合えないほど疲れちまってるのかなー」
「…」
「それなのに仕事とかまじ効率悪いよなー」
「っうるせぇなつきあえば良いんだろつきあえば!」


けなされているのか誘っているのかわからないが、そう正論で攻められるとイギリスもワインのグラスを手にとらざるを得なくなった。本当に憎たらしい。彼が生徒会室に現れた時点で、こんなことだろうとは思ったけれど。こいつにつきあってやるだけだ!こういうことがあるたびに自分に言い聞かせる言い訳を、またもイギリスは繰り返す。


「そうこなくちゃ」


フランスは満足げに笑いながら、近くに置いてあった椅子を掴み、イギリスの座る机の前に引っ張った。そこに斜めに腰掛け、グラスを掲げてくる。


「じゃあ、」


―――文化祭の成功と、我らが生徒会長様に。


フランスが、薄明かりの中で、に、と微笑んで告げた。ったく都合良いこといいやがって。イギリスはせめてもの仕返しに、


「全く役に立たない副会長にも」


そう言って、グラスを掲げる。フランスが、そりゃねーよ、と文句を言ってきたのは無視した。


チン、という軽い音を発して、ふたつのグラスが触れ合う。疲れきったからだに染みるワインは、癪なほどに美味だった。












生徒会室で、アペリティフ

































********


イギリスはあれですよ、最初からもうのり気だったんですよ。