「・・・雨なのか」
そんなつもりではなかったのに、発された自分の声は思いの外眠たげだった。窓の外には、ずしりと重い雲が隙間なく立ち込め、耳を澄ますと、ぱたぱたという雨の音。何時にもまして、憂鬱な朝だ。まるで隣のこいつの所みたいに。と、その彼の身体がもぞりと動き、
「雨だな」
と、気のない声が返ってきた。続いて、あー、と、灰色の雲と同じくらいに重い、ため息も。
「かったりーな」
何が、と彼は言わなかったが、帰るのがかったるいのだということはすぐにわかった。そう言うのすら面倒そうな彼の、短い髪になだめるように触れる。そのまま引き寄せるようにすれば、彼はその手に逆らわずに、ころりとフランスの方に向って転がった。抵抗しなかったのは、それもまた面倒だったからだろう。横向きになった身体、触れる肌はなまあたたかく、部屋に入り込んだ湿気の所為で、そのまま離れなくなりそうだ。
そんな無意味なことを、目覚めきらない頭の中でつらつらと考えていると、彼が隣でもぞもぞと動き出した。帰る準備でもするのかと思いきや、ただ体勢を変えたかっただけらしい。フランスの隣でからだを落ち着けたイギリスは、口を閉ざしたままだった。
伝わる肌の温度、血液の流れ。静かな寝室に、雨音だけが響く。何をするでもなく薄暗い天井を眺めた。心地良い。あと二日くらいこうしてだらだらしていたい。ふと、良いことを思いついた。
「なあ、帰るのかったるい、っつったよな」
横の彼に向って、しかし天井を見詰めたままに確認すると、彼が緩慢にフランスの方を向いたのがわかる。帰るのがかったるい、とは言ってない。相も変わらず可愛げのない小さな声が、直ぐ側から告げた。その声に、フランスも彼の方に顔を向ける。緑の眸が、いぶかしげにフランスを見詰めていた。ちょうど良いところにあった瞼にくちづければ、はたりと瞼が閉じて、それからゆっくりとまた開く。ああ、本当に、顔だけなら好みなのに。いや、顔だけなら好みだから。
「・・・土日、ずっと雨だって昨日お天気のお姉さんが言ってたぞ」
事実の叙述、に見せかけての誘いに、イギリスは一瞬目を見開き、――それから、くちびるだけでふっと笑った。分かりきってるくせに、はぐらかすように首を傾げる。
「だから?」
わかっているくせに、ほんっとうに可愛くない。けれど、彼とのこういう駆け引きだって嫌いじゃないから、こうして誘うのだ。
「お前は冷たい雨の中、ひとりで島まで帰りたい?それとも、」
言葉にするかわりに、再び彼の瞼にくちづける。鼻の頭にも、頬にも、顎の先にも。それから、唇にも。ひとつめは柔らかく、ふたつめは誘うように離れて、みっつめは思い切り深く。彼は、どのくちづけも絶妙のタイミングで受け入れた。相変わらずうまいな、とは思ったが、声には出さず、そのかわりに掻き抱くように身体を引き寄せた。彼はやはり、抱き寄せる腕に逆らわない。けれども、先ほどのように面倒だから抵抗しないのではないと、フランスにはわかっていた。掛布の下で、脚が絡んだ。
まだやみそうにないな
…ん、
キスの合間にも絶えない雨音に、彼に告げれば、気のない返事と、その癖に甘い、くちづけが返ってくる。
その週末は、ベッドで過ごした。
Moist weekend
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イギリスの偽者具合をどうにかしたいものです。
ところでフランスにもお天気のお姉さんはいるのだろうか。
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