「なんかよたよたしてるぞ!大丈夫かい?」


自転車の後輪に足をひっかけて立った姿勢を保つアルフレッドが、サドルに腰掛け懸命にペダルに体重をかけるアーサーに朗らかに笑った。うるせぇこのメタボめダイエットしろ!疾走する自転車のまわりを素早く過ぎ去る涼しい風、その間を、ふさわしくもなく暴言が縫う。だって君が漕ぐって言ったんじゃないか。アルフレッドは、自分より頼りないアーサーの肩を掴み直しながらけろりと言い放った。途端、いてぇよ馬鹿そんなに掴むな!と、アーサーが叫ぶ。


「てか俺らどこに向かってんの?」


小さな自転車の上でぎゃあぎゃあと騒ぐふたりを後ろから、やはり自転車で追いかけるフランシスがふと問い掛けた。その問いに、アルフレッドは首を後ろにひねってフランシスの方を向く。急に身体を動かしたせいでバランスを崩しかけた自転車相手にアーサーが慌てふためいているが気にしないことにした。マックじゃないかな?答えると、おっいいな、という、平静を装いながらも嬉しそうな声と、えーマックー!?という非難めいた声が前後から同時にアルフレッドに投げ付けられた。マックはなあ、お前らには良いかもしれないけどお兄さんの肥えた舌にはなぁ。フランシスがなにかよくわからないことを語り始めたので、アルフレッドはまた顔を前に向け直した。追いかけて来た、ちょっ聞けよ!という声は無視する。


爽やかに青い空のもとを、左折、のち直進。アーサーは順当にマックへの道を辿っている。フランシスもなんだかんだで付いて来ているようだ。肌に吹き付ける初夏の風が気持ち良い。午後四時の太陽は、それでも眩い光を放っていた。夏だ。無性にスピードを出したくなる。しかし漕いでいるのがおっさんたちだから、そうスピードはあがらないだろう。


やがて、ふたつの自転車とみっつの人影は広い通りに出た。あと少しでビックマックとポテトだ。コーラも。思ってわくわくしていると、フランシスがスピードを出したらしく、いつの間にか隣りを走っていた。彼はすぐにアルフレッドを抜かし、前に座るアーサーの隣りに落ち着いた。白いシャツがふたつ、アルフレッドの前に靡く。質感の違う、金髪も。


「お前が変な育て方するからあんな味オンチになったんだよ…いやお前の味オンチをどうこうしようとは思わないけどな?せめてアルフレッドはまともに…」
「んだとこの運動オンチ。まともなことひとっつも教えなさそうなお前にとやかく言われたくねぇ」
「運動オンチ?弟のっけてふらふらしてる奴が良く言うぜ」
「じゃあお前やってみろよ!進めもしねぇだろうから!」
「お前なぁ!」


いつもどおりの応酬が前方から風に乗せられて届く。並んで疾走するふたりの様子は自然で、アルフレッドは無性に話に首をつっこみたくなった。と、そこでちょうど良く、見慣れた看板を前方に発見する。


「あったぞ!」


アルフレッドの言葉に、騒いでいたアーサーとフランシスが同時に前を見る。俺はビックマックとポテトとコーラだ!宣言すれば、アーサーが呆れたように、お前まじカロリーとか考えろよな、と太い眉をひそめた。フランシスが、おにいちゃんは愛しのアルが心配で仕方ないみたいだな、とによによしながら揶揄する。それに対してアーサーが言い返す前に、はやくはやく、と急かすように背中を叩いた。ったくほんとにガキだな。アーサーは先ほどと同じように馬鹿にしたように言いながら、それでもスピードを出してくれたので、アルフレッドは少しだけ良い気分になった。









初夏、太陽、二台の自転車