米英、独仏独前提の仏英で事後です。OK!という方はどうぞ!












「てめぇの言う『お前だけ』程胡散臭いものもないな」


早々にベッドから這出て、放り出されたシャツを広い上げたイギリスがふと零した言葉は、嫌味っぽい内容の癖にあまりそれを感じさせない響きを残して、朝の寝室に消えた。その言葉にフランスは一瞬目を見開いてしまう。遅寝の朝の脳は、言葉の意味を理解するのも巧い反応を思いつくのも遅い。しかしすぐに、その意味を心得て、適当な切り返しを思いつけた。


「は?あれだけ情熱的に言ってやってんのにまだ足りないってか?」


心当たりがない訳ではない。むしろ心当たりしかないが、それでもフランスはいつもどおりに軽く笑って見せた。遠回しに、というには露骨すぎ、直接的、というには婉曲的すぎるイギリスの言葉。しかし暗に侮辱されたのは事実だ。それきり何も言わないイギリスに対し、フランスは仕返しとばかりに、ベッドに寝転がったまま、朝陽を反射する裸の背に向かって声を投げかけた。


「そういやお前は『お前だけ』とか言わないのな。つまんない奴」


言いながら見れば、イギリスは拾い上げたシャツを羽織ったところだった。白いシャツが朝陽に透けて、身体の線が見えたり、また隠れたりしている。ボタンを閉める前に、彼は緩慢な仕草でこちらを見やった。


「……」


その視線に、自分から仕掛けたのに意味もなく身構えてしまったフランスを余所に、彼はただ表情のない目でフランスを見ただけで、何も言わなかった。さすがに、『実際お前だけじゃないから』等と言うほど無粋ではなかったらしい。もっとも、彼がそんなことを口に出すわけがないのだ。お互い分かりきっている事――つまり、どうしたってお互いの一番にはなり得ない、ということ――は、いちいち口に出さない。それが、ふたりの間の不文律だから。と、イギリスがふとひとつ、笑みを漏らした。


「今まで何人の女に言ったんだ?」


話題が絶妙に変わる。正確にはイギリスが変えたのだ。しかしフランスはそれ以上の追求はしなかった。わかりきったことを聞いても利益などない。自分に言い聞かせて、代わりにフランスは、ちょっとふざけたように笑って見せた。


「数えられねぇなぁ。なんてったってこの俺だぜ?」
「相変わらず都合のいい記憶力だな」


どうせ同じだけ泣かせてるんだろーが。彼が馬鹿にしたように片頬で笑う。それから彼は、ボタンを留め始めた。脚の付け根にかかるシャツの長さが、ちょうどいい具合に扇情的だ。


「・・・今日の予定は?」


なんとなしに聞けば、仕事に決まってるだろーがお前馬鹿か、と、張り合いのない癖に癪に障る返事が返って来る。それを聞いたとき瞬間的に、アメリカに会うのか、という考えが頭を掠めたが、そうだったところでフランスがどうこう言えることでもないので、その考えはさっさと頭から追放することにする。唐突に、それまでは忘れていた、今週末にアルザスでドイツに会う予定を思い出した。


お前は、と、まるで義務のように聞き返されたのには、俺も仕事、とだけ返しておく。表面を滑るような会話に、分かりきったこととはいえ、イギリスにとっても、そして自分にとっても、お互いは、かりそめの居場所に過ぎないのだ、ということをあらためて確認した気分になる。そのことに対して、沸きあがる感情を努めて抑えようとする自分を誤魔化すように、掛布を引っ張り上げて、白に埋もれた。飯勝手に作るぞ、というイギリスの声が遠くに聞こえたが、フランスは聞こえない振りをした。









あしのかりね











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一回書いてみたかったお互い二番目、な仏英。でもそのことをおおっぴらには言わないというか言えないみたいな感じを書きたかったんですがなんか難しいなあ。これは英視点を書きたい。