「・・・だりー・・・」 ひたすら億劫そうに絞り出されたフランスの声は、柔らかな陽の差し込む静かな朝のベッドの上に、そのだるさを充満させるようにぼわりと響いた。うるせえよ、俺だってだるい。たぶんお前よりずっとだるい。イギリスは思ったが、声を出すのも面倒なので、とりあえず黙っておく事にする。横から圧し掛かってくるように押し付けられているからだはあたたかくも冷たくもない。相手のぬるい体温を布の下で感じながら、イギリスは腕を掛布から突き出して側においてある時計を掴んだ。腕に触れた朝の空気が冷たくて、心地好い。時計の金属の部分も。しかしそれは束の間で、すぐに肌寒くなってきた。 「・・・・・・」 眠い目を擦りながら見た時計の針は、出掛けるべき時間より大分前の時間をさしていた。けれどそれはイギリスの話であって、フランスはもっと早く出なければならない。それに加えてあれこれと手の込んだ支度をする彼のことだから、もう少しでベッドの住人を止めなければならないだろう。そのことを憐れむ気は一寸たりともないが、彼の用意した朝食を食べるためイギリスも早く起きなくてはいけない(別に一緒に食べたいわけではなくて、やはり温かいうちの方が美味しいからだ)のは大分面倒だから、もう少しゆっくりできればいいものを、などと思ってしまう。だがそれは無理な望みだとわかりきっていた。何故なら、今日は月曜日だから。 イギリスの手の中の時計を緩慢な動作で覗きこんだフランスが、げ、もうこんな時間、とぼやく。がしがしと頭に手をやるフランスを横目で見ながら、イギリスは時計を元の位置に戻した。敷布の隙間から入り込んだ空気が、またも肌に冷たかったが、それはあっという間にお互いの体温に紛れてしまった。いつもならこのタイミングでキスのふたつみっつがからだのあちこちに降りてくるのだが、今日はひとつが頬に押し付けられただけだった。まるで憂鬱さを移すようにじわりと触れたくちびる。彼はイギリスから顔を離すと、ゆるゆるとベッドに体を沈ませ、幾度目かのため息を吐く。 「・・・あー、行きたくねぇ」 「んなこと言ったって無理だろーが」 「そりゃ、そうだけどさ」 ぬくぬくとしたベッドの中で、いつもよりも大分遅いテンポで続けられる応酬。カーテンの隙間から入り込む陽の光が、時計の隣に置いてあるフランスの煙草の箱を照らしていた。そのさまを見詰めていると、イギリスの隣にうつ伏せに寝ていたフランスがごそごそと動き出した。いよいよ起きるらしい。あーあ。声と息を同時に吐き出す。それから彼は、うー、と唸って、―――そして、唐突に身を起こした。瞬間、掛布がまくりあがって、ぶわ、と冷たい空気が一気にベッドに入り込んでくる。肌に直接吹きあたる冷たい風に、イギリスは思わず震えた。なにすんだよ、寒いじゃねぇか。捲り上がった掛布をからだに巻きつけ直しながら文句を言うと、起き上がったときとは対照的に緩慢な動きでベッドに腰掛けたフランスは煙草の箱を手に取って、お前もどうせ起きるだろーが、今日は月曜だ、と言ってくる。煙草につけるための火がともる、しゅぼ、という音が続いた。彼が上半身を晒しているのはきっと目を覚ますためだろうが、背中に残る昨夜の傷跡を見たくなくて、イギリスは視線を紫煙に移した。細い煙が部屋に立ち昇るさまを見詰める。 この一本の後、フランスは適当にシャツでも羽織って朝食の支度を始めるのだろう。できあがるまでたぶん、もう一眠りするだけの時間はあるはずだ。昨日のあれこれに免じて、そのくらいは許してもらえるだろう。というか許しやがれ。許さなかったら殺す。一人分の体温によって、先ほどの冷たさがようやくなくなってきたベッドの中に寝転がって、イギリスは考える。瞼にかかる重力に逆らうのが面倒になって、瞳を閉じた。目を閉じる直前に、フランスの指が灰皿に煙草を押しつけるのが見えた。ああ、いい気持ちだ。広くなったベッドの中そう思った、その瞬間に、ベッドのスプリングが跳ねて、フランスがベッドから立ち上がったことを知った。 Blue Monday, Blue Morning ******* だらだらしてるふたりを書きたかっただけです。あとイギリスが寝ててフランスがそこに座ってる図を書きたかった。ところでフランス下に何着てるんだろう(笑) |