「っもういい加減にしろよ・・・!」


窓から差し込む朝日だけが、部屋をスポットライトのように照らしている薄暗い寝室の中、殆ど涙目のイギリスが、噛み付きそうな剣幕でフランスを睨み上げた。あー悪いな、もうちょっと。フランスは気のない返事をしながら、カメラを構え直す。聞いてんのか!?イギリスが叫んだ瞬間、フラッシュ。


「んー、これはまぁまぁ、かなぁ」
「んなことどいうでもいいからさっさとやめろ!腹減ったんだよ俺は!」
「まぁそんなカッカカッカすんなよ」


その顔もいいけど?言いながらもう一度カメラを向けるフランスに、イギリスがついに掴みかかろうとする。あっぶねぇなぁ。カメラを奪おうとしたイギリスをひょいとかわして、フランスは笑った。ぎゃあぎゃあ騒ぐイギリスから逃げながら、今朝これまでに撮った写真を確認。色々な表情が取れている。けだるげにシーツに身を沈ませた姿、恥ずかしげにうつむいた様子、頬を真っ赤にして叫んでいる顔、等々。まぁそろそろ解放してやってもいいかな。そう思いかけて、フランスは重大なことに気づいた。


(アレを撮ってなかったよ、俺としたことが)


数世紀もの間に、数え切れないほどに見てきた彼の表情の中でも、1、2を争うほど好きなあの表情を忘れていた。あれを撮らなくちゃ。思った瞬間、訳が分からないほどの衝動と、使命感のようなものに襲われた。見れば、イギリスはフランスからカメラを掠め取ろうと、じっと機会をうかがっていた。その顔もいいけれど、やはり。


「・・・なぁ、じゃあ、次ので終わらせるからさ」


フランスはまるで警戒する猫のように、じっとこちらを見ていたイギリスに向って笑った。


「最後に、最高に色っぽい、顔してみて」
「・・・はぁ?」


イギリスが、柔らかめに表現するなら、訳がわからない、という顔をして――もっと露骨に言うなら、コイツ頭やばいんじゃねぇの、というくらいの顔をして――フランスを見やった。イギリスがフランスの美意識を理解してくれないのは以前からで、今更わかってくれとは言わないし、イギリスごときに理解されても嫌だが、それにしても「はぁ?」の前の「・・・」の憎たらしさといったらない。しかし沸々と沸き起こる怒りを抑えて、フランスはイギリスに向って笑んだ。それもこれも、あの表情を見たいからだ。あれを撮らなくてはならないからだ。だから、フランスは言葉を続けた。


「なんだよ、お前はまともにモデルやることもできないのか?」


挑発的な言葉に、イギリスの眉がぴくりと動いた。同時に眸に剣呑な光が宿る。これだ。思いながら、フランスはもう一押し、とばかりに、今度は優しげな表情をつくった。


「・・・ああ悪い、俺が悪かった。ちょっとお前には無理なことを押し付けてたな」
「・・・んだって・・・?」


イギリスが、フランスを睨み上げた。けれども、恥ずかしそうに叫びながらだった先ほどのそれとは、まるで違っていた。あと少し、あともう少し。


「いいよ、もう飯作るわ。つきあわせて悪かったな」
「――撮れよ」


挑発に乗ったイギリスがついに、言い放った。――乗った。フランスは知らず、口角を上げていた。ベッドに腰掛け脚を組んだ彼が、シャツだけを羽織った姿で、こちらを見ていた。幼い肢体、白いシャツにぎりぎりに隠された脚の付け根、その癖に、凄まじい敵意と目を離すことのできないほどの引力を持った鋭い緑。


「それはそれは――、喜悦の極みだ」


嫌味っぽく首をかしげて見せると、はやくしろ、と彼は言って、首を傾けた。柔らかな朝の陽が降り注いだ首筋が発光するように白かった。ちょっと、シャツ脱いでみてよ。フランスの言葉にも、イギリスは動揺を見せなかった。


「・・・こうか・・・?」


イギリスがフランスに背を向けてから振り向き、先ほどとは一転して、誘うようにちょっとだけ、目を細めた。肩から滑り落ちたシャツがたわんで、フランスのつけた痕が無数に残った背が大胆に覗いた。昨日つけた赤いものから、数世紀前の傷まで。


「――すごくきれいだ」


視線で背中を舐める。Thank you、そう囁いたくちびるが、笑みを刻む。やっぱりこの顔が一番だな。思いながら、フランスはカメラを構えた。レンズの向こうの彼が、奔放なファム・ファタールのように笑っていた。















レンズの向こうに滲む色


































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色は色香の方の色なんですが、色香だと直接的すぎかなとか思って色にしたところ意味不明になりました。まぁいいや(適当)(いつものこと)


これは弄られるイギリスネタに反応してくださったやうさんに捧げます。返品不可だよ!(迷惑!)