シャワーを浴びて戻ってくると、寝室に彼の姿はなかった。朝食の準備でもしているのかと思って、髪を拭きながらベッドに腰掛けていると、やがて、朝食の匂いではなく、ピアノの音がしてきた。イギリスはなんとなしにその音色を耳で追う。これは確か、と、曲名を思い出しながら、ぼんやりしていたが、手持ち無沙汰だったので、やがてピアノの聞こえる方へ、ふらりと赴いた。 その部屋の前まで来ると、ドアが少しだけ、開いていた。中から漏れるピアノの音。やはりあの曲だった。イギリスは音を立てないように、フランスの音を邪魔しないように、そっとそのドアを更にあけた。微かに開いた隙間から、ピアノを奏でる彼の姿が見えた。――瞬間、イギリスはここへ来たことを後悔した。 窓から幾重もの線となって差し込む光は柔らかくその部屋を照らしていた。ピアノや、それに向かう彼の背を、まるでかなしみを癒やす様に。ゆったりと紡がれる旋律は優しく、不思議に心地好い響きの伴奏はしかし、どこかものがなしかった。フランスのブルーの目は、淡々と指の動きを追っていた。けれどその眸を見て、イギリスにはわかってしまった。彼は思い出しているのだ。遙か昔、彼を守ろうと立ち上がったあの村娘を。 あの頃彼に襲いかかったであろう様々な激情――それはきっとイギリスと、そして彼自身に向けられた――は、年月に濾過されて流れさったのだろう。残ったのはただ、遙か昔の記憶だけ。彼は今、それを、静かに思い出しているのだ。彼女がどんな風に笑い、どんな風に彼を想ったを。そして彼自身が、どんな風に、かの娘を想っていたかを。遠い遠い、遙か昔の思い出を、安らかに、懐かしく。 イギリスはこの曲の題名を知っていた。そして、彼にとってただひとりの「亡き王女」を、知っていた。彼が、一旦は忘れようと努め、けれど結局忘れることなどできなかった、彼女のことを知っていた。彼すら知らない、その壮絶な最期を知っていた。だからこそ。 「――――・・・」 そっと、イギリスは身を引いて、その部屋から遠ざかった。幾年もの、気が遠くなるようなときが流れ去っても――それでも、自分はここにいてはならないのだと、イギリスにはわかっていた。 ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」ネタ。すみません趣味に走りすぎました。フランス兄ちゃんはピアノも上手いよきっと。 王女ていうとジャンヌってかマリーアントアネットみたいですね(笑・・・えない) 誰の事を指すかとかないみたいなので、兄ちゃんだったらジャンヌのこと思い出せばいいなぁみたいな妄想です。にしても、ジャンヌのこととか、アメリカのことがあってもずっと隣に居続けないといけないってのはすごいつらいですね。仏英はすっげ深いとおもいました(作文)(意味不明) というわけで、東水さゆさまに捧げます!これどこが仏英?むしろジャンヌメイン・・・ほんっとうすみません(土下座)今までジャンヌネタは書いた事なかったので、改めて調べてみたら本当すごくって、思わず彼女メインに・・・ジャンヌの最期てすごい壮絶ですね・・・(無知すぎる)。今回は素敵なリクエストをありがとうございました!こんなブツですが、どうかお納めください。これからもどうぞよろしくお願いします! |