「あー、最悪・・・」 ベッドにうつ伏せになり、枕に顔をうずめたイギリスが、息を吐きながら、感情を込めに込めてそう呟いたのを、バスローブ姿で髪を拭いていたフランスは、聞き逃さなかった。 「はぁ〜そういうこという?さっきまであんな声、上げてた癖に」 ブルーの瞳を細めたフランスの、下卑て嫌味ったらしい返事に、イギリスが勢い良く枕から顔を上げて、フランスを見る。鋭くねめつけた視線の先には、にやにやと笑うフランス。それを見たイギリスは一旦、思い切り顔をしかめ――しかし、その後、(そうくるか)という風に、目を細めて皮肉げに笑った。それから、ベッドに両肘をついて、そして、フランスに向かって、最大限に憎たらしく「はぁ?」と言ってみせる。くちびるには、これまた嫌味ったらしい笑み。 「てめぇのために喘いでやったんだよ。その方がてめぇのよがる顔を見れるかと思ってな・・・おかげで間抜けな顔が見れた」 「お前何言ってんだ?よがってたのはお前だっつーの・・・ああ、そっか、意識ぶっとんで忘れちゃったんだな」 なんてったって、お相手はこの俺だし?お前、目、いっちゃってたもんな。嘲笑したフランスを見る、イギリスの視線の温度が、その瞬間急激に下がった。同時に、声に迫力――というかドス――がきく。それはもう、猛烈な。 「・・・あぁ?そんなことよく言えるな、お前。――あれしきで息上がってたのはどこの誰だ?」 しかし、その表情をこれまで飽きるほど見てきたフランスは全く動じることなく、はっ、と鼻先で笑った。 「お前なんかまともに喋れてなかったじゃん。しかも、あの時の目、すごかったぜ?そんなに欲しいなら、あげるしかないかな、て感じ?」 「先に我慢できなくなったのはお前だろーが!あの後、てめぇが呻いてたの知ってんぞ!」 「いーや、お前だな!超しがみ付いてたじゃん、俺に。痕がばっちり残ってるぜ、俺の背中にな!ああ痛い痛い」 「お前だって余裕ないのを誤魔化すためにやったら痕つけまくってただろ!?こっちは全身だっつの!!」 勢いで、いつのまにか、イギリスは起き上がって、ベッドにべたりと腰掛けている。フランスも、髪を拭っていたタオルをどこかにほっぽっていた。どんどん熱の上がっていく応酬、しかし、 「そうでもしないと愛情が感じられないかと思ってな?ほら、お前ほんっとうに寂しいやつじゃん」 「余計なお世話だこのケダモノ!!自分の間抜け面鏡で見てからそういうことは言えっての!!」 「お前こそ、あの顔鏡で見て見ろっての!!」 「っ・・・―――」 それは、次の瞬間、急に、止まった。イギリスが、怒りを吐き出そうとくちびるを開いたまま一瞬固まって、それから熱を逃すように息を吐き出した。鼻先だけで、彼は笑う。これ以上の口論は無意味だと告げるように。まるで唐突に時が止まったように、部屋が、沈黙に包まれた――それは、嵐の前の静けさにも似て。 一瞬の沈黙の後、イギリスが一旦目を伏せた後、ゆっくりと敵意に燃えた、視線を戻す。ふたりの視線がかちあった。戦いの前の、背筋に戦慄の走るような緑を向けられたフランスは、その瞳を見て、片眉を上げた。闘いはすでに始まっていた。しかしまだ、部屋は静けさを保って。 賽を投げたのは、フランスだった。 「――やんのか?俺は、いいぜ?」 フランスが、イギリスのベッドへと近づいていった。見下ろしてくる、挑発的なブルーを、イギリスは見上げる。すっと伸びたくびすじからその顎にかけてを、フランスの指が滑った。感情を感じさせない表情で、フランスを見上げていたイギリスは、 「・・・はっ、せいぜい覚悟しやがれ」 にやり。笑って、フランスのバスローブの襟元を強引に引っ張り、 乱暴に、そのくちびるに、噛み付いた。 覚悟しろって・・・受けの台詞じゃないよママー!!そして最近・・・終わりがいつも・・・同じです・・・ |