仏英というより英仏英です。











なる程これもまた勝負なのだ、と、イギリスは思う。


勝ちか負けか、と問われれば、昨夜はどちらともいえなかった、と、思いたい。そう考えながら、イギリスは後ろから己を抱きしめる、フランスの腕を見た。眠っているために力は抜け、すぐにでもすり抜けることはできる。けれどあちこちがだるかったので、そうはしなかった。


彼を起こさないよう静かに、そっと後ろを振り返れば、安らかに目を閉じた寝顔。睫が驚くほど、長い。イギリスがからだを動かしたから収まりが悪くなったのか、ん、と彼が呻いた。イギリスが慌てて元のようにフランスに背を向ける姿勢にもどると、やさしくからだを抱きしめ直される。あたたかな体が、イギリスの背におしつけられた。くちびるから漏れる息が肩にあたる。抱きしめた手は、イギリスより少しだけ大きく、長く陽に当たっている分、少しだけ焼けていた。


それにしても、昨夜の体勢は酷かった。思い出して、イギリスは頬がかっと熱くなるのを感じた。フランス相手だと、多少無理しても負けたくない、という気持ちが働いて、いつもいつもかなり無茶なことをしてしまう。なんでもかんでも向こうの予想以上にやりおおせなければ満足できない。その結果、いつも次の朝に昨晩の自身の痴態を思い出しては猛烈に後悔することになる。


それでも昨夜、自分は負けてはいなかった。イギリスは自分に言い聞かす。今でも鮮明に思い出せる。ぼんやりとする意識の中、見下ろした――イギリスが見おろしている時点でかなり酷い体勢だったことがわかる――フランスの瞳からは明らかな欲情が見て取れたことを。腰を支える手は熱く、名を呼ぶ声は低く響き。壮絶な色気をたたえたその眸を、自分がそうさせたのだと思う瞬間にわきおこる興奮にも似た愉悦は、彼相手にしか得ることができないものだ。


しかし困るのは、その愉悦がまた別の感覚になって、イギリスを蝕むことだ。自分は負けていない、と、そうわかった瞬間、その事実はイギリスをとろけさせる。いやな螺旋構造だ。きっとフランスも、同じ渦に巻き込まれているのだろう、とイギリスは思う。結局のところ、ふたりしておちてゆくだけなのだ。


昨日は負けてはいなかった。――けれど、決定的な勝利を得たわけでもなかった。結局彼の手管に貶められ、意識すら保てず、最後には彼に縋ったのだから――あの瞬間のフランスの笑みは反則だと思う。欲情を秘めたブルーの眸が愉快そうに細められ、口角に乗せる微笑は満足感に満ち。そうして彼は、ぞくぞくするような声で言うのだ。ほんとにしょうがないやつ、と。


やはり、これもまた勝負なのだ。身体を這う彼のゆびさき、あの低い囁き、名と共に吹き込まれる息にイギリスが負けるか、それともイギリスが彼を貶めるか。結局はふたりでおちるしかないと分かってはいても、やめられない。ふたりで居る限り、いつでも、勝負をしていなければ――もはやそれは、宿命にも似ている。


ならば開き直ってやろう、とイギリスはまたもそっと、フランスの腕の中で身体を反転させた。まだ眸を閉じているフランスを見て、にぃ、と笑う。その脚に、自ら脚を絡めて。


(先手必勝、だろ?)


そっとその首筋に、かみついた。瞬間、フランスが驚いて、目を覚ましたのが、耳に届いた呻き声で分かる。一泡ふかせてやった。その事実に、イギリスはどうしようもないほどの悦びを、感じて。


「おはよう、フランス」


笑んで、眠い目をこすっているフランスを見下ろせば、彼もまた理解したのだろう。目を見開いていた彼は――やがて、悪巧みをするときのような笑みを、その眸に浮かべた。











わたしの愛しい好敵手

































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英と仏はライバル!ライバル!と唱えながら書いたブツ。