何かのもそもそと動く音がして、ああイギリス帰るのか、とぼんやり頭の隅で思った。だけれど瞼を開けるほど興味のあることでもなくて、わざわざ起き上がってベッドまで呼び寄せ、額あたりにキスして『また今度な、マピュス』とかなんとか言うような仲でもないから、目を閉じたまま、再び眠る事にする。広くなったベッドで寝返りをうてばシーツは温く、それがなんとなしにフランスを空しい気分にさせた。


そのままで、再びうつらうつらとまどろむ。イギリスが鞄をしめたらしい音が聞こえた。すぐに硬質な足音が続き、それからパタン、とドアが閉まるのだろう。毎度のパターンを思い出して、それでもフランスは起きようとしなかった。変なタイミングで起きないほうが良いのだ。今頃起き上がれば、見えるのは、イギリスの背中だけ―――それは、目覚めた瞬間に誰も部屋にいないことに気づくよりもずっと、虚しい。昨夜あれほどの情熱をもって抱きしめた背中が、近づくことさえ許さない冷たさを発しているのを、すすんで見たい奴がいるだろうか?


そんなことを、やはり頭の隅で考えていたフランスの、思考が遮断されたのは、それから数十秒も経たない内だった。いつもよりもやけに躊躇している足音が、かつ、かつ、と遠慮がちに近づいてきて、そして唐突に、何かが瞼に触れた。それは一瞬で離れて、だけれど、それが何かわからないほどフランスは鈍感な男ではない。眠気が一瞬で消え失せて、フランスは思わず目を見開いた。ちょうどイギリスが、ドアに向かおうと、こちらに背を向けたところだった。振り向きもせずに、今度はかなりの早足で、かつかつとドアへ向かう。パタンとドアの、しまる音。足音が、だんだんに遠のいていった。


己の瞼に手をやったまま、ただドアを見詰める。くちびるの触れた感触が、鮮明すぎて、残酷だった。


わだかまる甘い感傷はすぐにまた、あの諦めに似た感覚に変わって、胸を占領していくのだろう。これもまた、いつものパターンだ。それなのになんてこと、一瞬でも、ほんの僅かでも、また、期待をしてしまっただなんて。やはり変なタイミングで目を開けたのがいけなかったのだ。目を開けなければ、背を向けた瞬間の、あの赤い耳を、見なければ。








けれども私は見てしまった

































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なかなか前に進めない仏英。