柔らかい照明で、フランスの顔が照らし出される。ながいながい睫が、照らされた肌の、頬のあたりに濃い影を作り、彼がゆっくりと瞬くたびに、その影もまた、ゆらりと揺れた。 「それでさ・・・」 ソファに座り、ワイン片手に、フランスは先ほどからずっと、何かを喋り続けている。先ほどは今年のワインの出来を話していたはずが、いつの間に上司の愚痴になっていた。どうせ酔っているのだろう。隣に腰掛けたイギリスはその話を殆ど右から左へと受け流しながら、その赤い唇を眺めた。ワインと同じ色をして、濡れ光っている。 そういえば昔――それこそまだ、何をするにもフランスにくっついて廻っていた頃――、フランスのこと綺麗な奴だと思っていたな、と、ふとイギリスは思い出した。その頃は今のような無精ひげもなくて、清らかな雰囲気の、それこそ美少年の名にふさわしかったように思う。まあ、それでもこの変態加減は変わりなかったが。 けどまあ、別に今も、そこまで悪くなったわけじゃないか。イギリスはまだ喋り続けているフランスの、頬に落ちる睫の影が揺れるのをまた、見ながら考えた。その長い睫に囲われた瞳の、青さが目に眩しい。輪郭やら目の形やら鼻筋やら、やたら整っていて、けれども人形的というわけではなくて。華奢なグラスを持つ右手がふと目に入って、少し節くれだった指の、探り当てる感触を思い出した――途端、頬が熱くなった。 何を思い出しているんだ、イギリスは自身に言い聞かせて、気を紛らそうと、ワインを口に含む。 「おい、聞いてっか?」 ふいにフランスが話をやめて、目を覗き込みながら尋ねてきた。その青にイギリスが映っていた。南国の透き通った海のような色、今にも吸い込まれそうに、きらきらと光った。 「・・・っきいてるよ」 「うそつけ」 間髪いれずに断定され、それから更に、顔を近づけられた。 「俺に、見惚れてただろ?」 にい、と唇の端が上がって、囁かれた言葉と共に葡萄酒の匂いがかかる。海の色の目が細められて、また、頬に落ちる睫の陰影が揺れた。その様の醸す色気に一瞬見蕩れて、いつもの文句を言おうとした筈の唇をつぐんでしまう。その隙にその唇をふさがれた。ワインと香水の匂いがまとわりつく。飽きるほどに嗅いできたその匂いが、奇妙なほどに官能的だった。 (ああ、俺も酔ってんのか) とすれば、この男の顔をまじまじと見詰めて、あまつさえ綺麗だなどと考えてしまったことにも納得がいく。背を支える手の力強さに、今日ぐらいはこいつに付き合ってやっても、とイギリスはこわばっていた体の力を抜き、身を委ねた。 (俺がそうしたいんじゃなくて、こいつに付き合ってやるだけだ!) 一生懸命自分に言い聞かせながら、くちづけを甘んじて受ける。そんな自分に強烈な嫌悪を感じて、それなのに、この夜も、イギリスは決してそれに逆らう事がでできなかったのだ。 |