「おーい、どこ行ったんだー!!」


鬱蒼と茂った森の中、ごつごつした木の根に足を捕らわれながら声を張り上げて探し回る。もう何度も叫んで、喉が痛くなってきた。――それなのに、やはり、あの小さな子供の返事はない。


「おーい・・・・・・」


フランスはひとつ息をついて、一旦立ち止まった。額に浮かんだ汗を乱暴に拭う。緑色の冷たい風が、フランスの側を笑うようにすり抜けて、そこで初めて頬が火照っているのを知った。足元に、オレンジの花がひとつ、咲いている。しん、と静かな森。遠くでひとつ、鳥の鳴き声がした。


頭上を仰げば、深い緑と、その隙間から青い空。小さな子供の、この森にも似た美しい瞳を思い出す。今頃頬を真っ赤にして、どこかの木の影で泣きじゃくっているのだろう。そのくせ、見つけたら「別に探して欲しいなんて思ってなかったんだからな!」とかなんとか、涙声で怒鳴るのだ。


「可愛くねー奴・・・」


呟いた声が木々の間に響いて消えた。毒づいたはずの言葉は、しかし不安で満たされていて、その声色に自分で不安になった。


「・・・・・・」


もうひとつ、息をついてまた歩き出す。どうせ泣いているだろうから、名など呼ばなくともわかるはずだ。だるい足を奮い立たせて、ざく、ざく、と歩を進める。チチチ、という鳥の鳴き声、冷たく湿った空気、どこまでも続く緑。どうしようもなく、独りだった。


(泣きたいのはこっちだっつーの)


延々と歩き続けながら、いつの間にか浮かんだ、汗だか涙だかを、袖で拭った。


(どこにいるんだよ、返事しろよ)











そろそろ日が暮れ始めるのではないかとフランスはいよいよ不安になってきた。木漏れ日の光の色がクリーム色になり、明らかに夕暮れの近いことを知らせている。 足がだるい。喉が乾いた。帰りたい。そんな思いがフランスの胸を占める。もはや何のために歩いているのかすらわからない、しかし脳裏にはあの子供の泣き声が、響き続けていて、足を止める事ができない。

木々の間からちろちろという水の音が聞こえることにフランスは気づいた。水がどこからか、湧いているのだろう。足を止めた。顔を洗いたい、ついでに水も飲みたい。少し座って、冷静になろう。水音に導かれるまま、唇を噛み締めて、もはや言う事を聞かなくなってきた足を引きずる様にそこへと向かう。



たどり着いた水場は、木々と木漏れ日で不思議な色を湛えていた。深緑と、金と、灰色と、黒が混ざり合って、岩の間から零れだしている。ゆびさきをちょっとだけ、きらきらしたそれにつければ、その冷たさに安堵したような息が思わず漏れた。

はやくあいつを連れ帰って、温かいミルクでも飲ませて、それから暖かいベッドで寝かせなくちゃな。

顔を洗いながら考えて、ぐっと足に力を込めて立ち上がる。笑う膝、少しふらついて、(俺も早く寝たいしな)と苦笑しながら心中で付け加えた。泉に背を向ける。



そのとき、急に何か小さな物体が、フランスめがけて突進してきた。


「!?」


腹の辺りに衝突したそれを、しかしふらついたフランスの足は支えきる事などできず。


「うわっちょっ!」


ばしゃ、と、派手な音を立てて、つめたいその水の中へと尻餅をつくこととなった。
じわじわと冷たさが腰から足にかけて広がる。勘弁してくれ。思いながら、突進してきたものを見やる。金色の髪、小さなからだ。


「お前・・・」
「あ・・・」


小さく声をあげて、それはようやく顔を上げた。あの緑が、木漏れ日にきらきらと光る。


(・・・見つけた)


思わず涙が出そうになった。赤くはれた目元や涙の痕の残る柔らかな頬を濡れた指先で辿る。あ、と小さな声を再び上げた小さな子供の、緑にじわりと水の膜が浮かび上がった。


「ぅ・・・」


小さなくちびるを噛み締めて、声を上げないように我慢する子供の、緑の瞳からはぽろぽろとひっきりなしに雫が毀れた。ぎゅ、と小さな手が、フランスの煌びやかな服を握り締めた。顔を胸に押し付けて、嗚咽を漏らす。もう、会えないかと思った。零れ出た、涙の混じる小さな小さな声に、フランスは、ぎゅっとそのからだを抱きしめた。


彼の涙がフランスの服に染みて、全身がびしょびしょになっていく。しかし両の腕で抱きしめた小さなからだの温かさに、何故かフランスも、涙が止まらなかった。





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子仏チビ英。よくある迷子ネタ。
ちなみに英を仏のとこに連れてったのは妖精という設定(笑
その妖精さんはふたりがひしと抱き合ってるのを見てウィンクしてきらっと消えた設定(入れろよ)
しかしふたりは気づかない設定。
あとで仏が英に「どうしてあそこにいたんだ?」って聞いて英は「妖精が・・・」と笑います。
仏は笑顔にほだされて、「そーかー」って一回納得して、あとで「アレ?」てなるんだよ!