「この枕カバー、なんだかちょっと、甘い匂いがするね」 洗濯用のかごに放り込まれていた枕カバーは、つい昨日変えたばかりのものだった。不思議に思って手にとって。そして彼がかごにそれを入れた理由を知った。 アメリカが思ったことを思ったとおりに言うと、イギリスの眸にしまった、という表情と、怯えのようなものが浮かんだ。 「ああ、そうか?・・・俺はわかんねぇけど」 視線を合わせずに言う彼。嘘を吐いている事くらい簡単に分かった。 「今日、フランス来たんだ?」 言うと、彼は可愛そうなほどに目を見開いてアメリカを見つめてくる。そんなに怯えなくたっていいのに。思いながら、その髪を撫でると、悪い、と彼が呟いた。何に対して彼が謝っているのか、アメリカは知っていた。 「どうして?」 それでも、何も知らないような振りをして訊ねると、彼が戸惑ったように眉を寄せる。知ってるんだろ、と、緑の眸が訴えたが、アメリカは知らない振りをした。正確に言うと、知らない振りをするしかなかったのだ。こういうときどうすればいいのか、わからなかった。彼のことなんて見てないでこっちだけを見てよ、と強く抱きすくめようか?でも自分はそんなことをできるような立場にはいないと、アメリカにはわかっていた。彼らがそれで良いと思っていた、あの絶妙な関係を壊したのは自分なのだとアメリカにはわかっていたから。 「・・・やっぱり、」 遊びなんかじゃなかったんだよ アメリカは、イギリスを手に入れてからずっと思い続けていたことをすんでのところで言いかけて、はっと気づいて口をつぐんだ。言って、どうするつもりだったのだろう?あれほどの間――といっても、きっとふたりからすればほんの短い間なのだろうけれど――イギリスを独占したいと思い続けて、そしてようやくそうすることができたというのに、今更彼に自覚させて、どうしようというのだろう? 今や彼は、アメリカが何をしても、それに逆らえなくなった。何でも――それこそ、最大限に屈辱的なことでも、彼は従順とさえ言える様子で実行してみせるくらいに。それは確かに、アメリカが望んでさせたことに違いなかった。けれど、違うのだ。アメリカは、もっと違う何かを求めていた。言ってみるなら、対等な、軽くからかいあって笑えるような、暗い過去を、なかったことにはできなくても、それでも共に歩いていけるような―― 見れば、イギリスには言いかけたアメリカの言葉が聞こえなかったらしい。ソファの上、酷くつらそうな顔で、目を伏せていた。まだ調子が戻らないから、とか、そんな理由なら、どんなに気が楽だっただろうか。けれど、そんな訳がなかった。目の縁が痛々しいほどに赤くて、彼がついさっきまで泣いていたのが、わかった。結局のところ、彼の頭の中は今でも、フランスのことで一杯なのだろう。イギリスとの距離は確かに縮まった。あれから、色んな彼を知った。それなのに――そのはずなのに、なんだか以前よりも彼が酷く遠い存在になってしまったような、そんな気がした。 |