「お前、俺の好きなとこ、あげてみろ」 そう変わらない身長の癖にそこまで重くはないのは何故だろう。絶対まともなものを食っていないからだ。そんなことをつらつらと考えていたフランスの上に、俯せに寝転んだイギリスが、不意に口を開いた。何を言い出すかといえば、至極くだらないくせに、やたら難易度の高い質問。フランスは少し考え込んでしまった。 「そんなのあるわけねぇだろ――強いて言うなら顔?」 「それだけか?愛の国の癖に大したことねぇな」 イギリスは、フランスの鎖骨のあたりを面白いものを見るように見つめ、浮き上がった骨を指でなぞりながら、小馬鹿にしたように笑ってフランスの答えを切り捨てた。薄い生地の掛布の中触れ合う肌はすっかり先程の熱を失っている。声も、微かに甘さを残しているだけで、殆どいつもと変わらない。彼はそのまま視線だけを動かして、眉を少しあげ、表情だけで憎たらしくフランスを揶揄してきた。 「もっとそれらしく色々あげてみろよ」 挑戦的に笑う彼。そのうなじと、短くはさはさした感触の髪を弄りながら、フランスは同じ質問を突き付け返した。 「お前こそやってみろよ。今更無理だろうが」 「んー、…」 少し首を傾けて、彼は考える素振りをみせたが、やがてあきらめたようにひとつ息をついた。 「ほらな」 やっぱり、と、笑ってみせる。しかしイギリスはしれっとした顔をしていた。 「俺は言えなくてもお前は言えなきゃダメだろ」 「なんだよその論理は」 「自称愛の国だろ?」 隣国にすら愛をばらまけないのか。相変わらずの嫌味っぽい受け答えに、フランスは知らず、ひとつ息を漏らしていた。ったくこいつは――思ったところで、答えをひとつ、思いついた。 「ああ、まぁあえて言うならアレだな」 言いながらイギリスを見上げる。何を言うのか、とじっとフランスを見つめている瞳は一転してあどけなかった。いつもながらこのギャップはいけないと思う。いつもはあれだけ凶悪なのに、時たまふと見せる表情が昔のままの幼さを残しているのが。しかもこれだけは無自覚らしいのが、更に悪い。思いながら、フランスは指を髪から柔らかな頬に滑らせる。なにを言おうとしてたんだっけ。・・・そうだ、こいつの好きなとこ。フランスは言葉を続けた。 「お前は俺の思い通りにならないのがいい、かな」 まぁそこが最悪でもあるわけだけど。お前ほど俺の望み通りに動いてくれない奴もいねぇよ。言うと、イギリスはその答えが気に入ったらしかった。ちょっと楽しそうにくつくつと笑って、指にフランスの髪を一房絡ませる。絡んだそれを弄りながら視線をこちらに寄越してくる。細めた目が、どこか誇らしげだった。 「んなの当然だろうが。てめぇの好きなように動くなんざまっぴらだ」 可愛らしさの欠片もない台詞とは裏腹に、見つめる視線が甘くなった。髪が指から離れ、くちびるが、額に、いとおしむように押し付けられる。彼は機嫌よさそうに、満足したように、悪戯っぽく笑った。つづけて、鼻の頭にも、目頭にも、くちづけ。その感触とイギリスの表情に誘われているような気がして、確認の言葉の代わりにその首のうしろを引いて顔を近付けてみる。彼は抵抗しなかった。答えはウィ、らしい。 「お前も俺の思い通りに動かねぇな。まぁお前がそんな――」 続きそうだった憎らしい言葉を、口付けることで無理矢理飲み込ませた。イギリスはわかってはいたのだろうが、こんなにすぐだとは思っていなかったらしく、最初、驚いたように無反応だった。彼の意表を突いたことに、悦びがわきあがる。勿論、彼はすぐに乗ってきたのだが。 くちびるを離して見つめたイギリスの瞳は明らかに、先ほどにはなかった熱を含んでいた。そのことに満足して見ていると、だらしねぇ顔、自分から仕掛けたくせに、と、彼が笑った。フランス自身も同じだったらしい。 「今はお前の思い通りだろ…いや、これからか」 「これは俺の望みじゃねぇよ、お前につきあってやるだけだ」 「エロ大使がよく言うよ」 「ごたごたうるせえな愛の伝道師」 「愛の伝道師関係ねぇだろうが」 くちびるが触れるほどの距離、吐息を感じながら交わした応酬が、いつのまにやら途切れて、キスにとって代わる。幾度も、幾度も、どちらともなく、重ねて。 くちづけの合間にみた彼の瞳の、愉快そうな表情。いかにも手強そうなその笑み。だからこそ、やめられないのだ。一筋縄ではいかないからこそ、決して手に入らないからこそ――。 あなたはいつだってあなたのもの ********* うん、コメントしにくいSSになった・・・。とりあえず「思い通りにならないのが最悪だけどいい」というのがかけて満足です。 ということで、「仏英、砂吐くぐらいのあっまあま」をリクしてくださった方に捧げます。砂吐くほどまでいっている自信は自分でもないですが(泣)、自分の中では相当甘くしたつもりです・・・。こんなものでもよろしかったらどうぞお受け取りください。今回はリクありがとうございました!これからもどうぞよろしくお願いします! |