「俺がつけてやろうか」
「は?」


鏡に向って、さあ香水をつけようか、というときに、ふいに背後から声がかけられた。会議まであと数時間。出立まであと30分。あれこれと時間をかけるフランスとは対照的に、さっさと支度を済ませたイギリスは、壁にもたれかかって本を読んでいたが、それがふと視線をあげて、そして先の台詞。


まともな返事をする前に、彼が隣に立ったのが、鏡にうつってわかった。手の香水瓶を奪われた。彼はそれから、少し首を傾げて、フランスに視線をやってくる。


「だから、俺が香水つけてやるよ」
「どういう風の吹き回しだよ?」
「意味なんかねぇよ。ただの暇つぶし」
「わけわかんねぇんだけど」
「お前にわかってもらおうとか思ってない」
「さいですかー」


けれど強く拒むほどの提案でもなかったので、つけすぎるなよ、とだけ言って彼にまかせることにした。何千回お前がつけてるとこ見てると思ってんだよ。そう返しながら、彼はそれをまず自分の手首にしゅ、とつけて、匂いをかいだ。彼の匂いと香水の匂いが混じって、あたりの冷たい空気に散逸する。


「・・・・」
「いいにおいだろ」


何も言わない彼にそう言ってみせたが、それでも彼は何も言わなかった。別に彼に褒められたいとも思っていないので、特にはつっこまないことにする。彼は結局、においに対する反応をしないまま、まずどこにつけるかを考えているのだろう、シャツ姿のフランスをじっと見てきた。そうしながら、口を開く。


「確か、」


言いながら、香水瓶から指先に、液体を受ける。


「香水って、キスされたいとこにつけるんだよな」
「・・・え?」


一瞬、うまく反応ができなかった。イギリスはフランスが呆気に取られている隙に、その指をフランスの肌に滑らせてきた。


「じゃあ、・・・ここにつければいいんだな」


ひんやりとした液体の感触、優しく肌をなぞるゆびさき、漂う香水の華やかな匂い。まさしくキスを求めているその場所に。その感触に、ようやっと先ほどの言葉のことを思い出した。


「・・・よくご存知で」


香水のことも、キスされたいところも。笑んでみせると、イギリスの口角が上がった。


「当然だ」



俺を誰だと思ってんだよ。不敵に笑ったイギリスが香水瓶を鏡台にことりと置いた様子が、鏡にうつされる。洗練された匂いと、朝の空気、彼の纏う空気。今朝、やたらと女王様はご機嫌なようだった。何かあったの?聞いても、なにも、と笑うだけ。訝しいといえばそうだったが、しかし向こうが乗り気ならこちらも乗らない手はない。お前にもつけていい?冗談紛れに提案してみると、イギリスはこれまた予想外に愉快そうに笑ってきた。


「てめぇが、場所をはずさないならな」
「お前、俺を誰だと思ってんだよ」


先ほどのイギリスの台詞をそっくり返す。イギリスはその反応に更に気をよくしたようだった。鏡台の上の香水瓶を手にとる。液体を指先につけ、それをイギリスの肌に乗せた。


「・・・ビンゴ?」


聞きながら、得意げな笑みが漏れてしまった。イギリスは、当たらなかったらその窓から落としてた、と、不穏なことを言っている。己と同じ匂いを纏って、勝気そうに笑う彼はちょっとだけ、魅力的だった。その引力に逆らわず、その身体を引き寄せた。


「支度はいいのかよ」


その台詞とは裏腹に、抵抗せず、さらには優しくくちびるを重ねてきたイギリスの、くちびるを舌でなぞって、返答の代わりにした。くすぐったそうに身を竦ませた彼の肌を、今度は指で撫でる。もうすこしだけなら、別に大丈夫だろう。思いながら食んだ肌は、朝陽を受けて誘うようだった。














匂い立つベルガモット






























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これは甘いんです。甘いんです。ほら、甘いような気がしてきた!(・・・)


ということで、「仏英のデロ甘ラブ」をリクしてくださったクミコさまに捧げます。どこのあたりがデロ甘ラブかといいますと、こう、お互い知っているところらへんが、そうなんです(言い訳)(土下座)。今回はリクありがとうございました!今までデロ甘は考えたことがなかったのでとても面白かったです。これからもどうぞよろしくお願いします!