熟睡する男一人分の体重は、やはり重い。よろめきながら、勝手知ったる寝室へと入った。電気も点けないまま、ベッドへと酔っ払いと共に歩む。どさりとベッドに降ろした。はぁ。やっと重さから解放される。一息ついた。視線を上にあげて、そこで寝室に薔薇が一輪いけてあるのに気づいた。相変わらずだ。もうひとつ、息をついて、それから酔っ払いを見下ろした。窓からの月明かりで伺える、眠ってしまったイギリスの顔は、ふわりと優しげだった。・・・これで酒臭くなければな。フランスはちょっと笑いながら、投げ出された頼りない手足を納めてやる。ブランケットをかけてやると、彼は心地よさそうにそれにくるまった。すうすうと寝息をたてて眠る顔は、昔とそう変わらない幼さを、起きているときよりも更に感じさせた。 フランスはベッドにそっと、腰掛けた。今日の愚痴もアメリカのことばっかだったな――しかもあんなに惚気てくれちゃって。八割は惚気だったぞあれ。胸中で思いながら、頬に掛かった金髪をどけてやった。そのまま髪を指に絡めてみる。薄暗い室内でも、イギリスの頬が酒の所為で林檎のように赤いのがわかった。そっと触れてみると、とても熱い。ふに、とつまんでみた。それでも彼は、起きなかった。 (ったくしっかり熟睡しちゃってまぁ・・・) くすりと笑みが漏れた。イギリスには起きる気配すらない。瞑った瞳も安らかに幸せそうで、微かに開いた唇から吐息が漏れていた。その寝顔は、本当に昔と変わらない気がする。幼い輪郭に、赤い頬、降りた瞼。――何時の間にやら、そのすがたをじっと、見詰めていた。 (・・・今なら、―――) はっと気づくと、しょうもないことを考えていた。一体何を考えているんだか。酒癖の悪いヤツの相手はやっぱ疲れるな。フランスは一息ついてからかがめていた身体を起こし、頭を緩く振って、馬鹿な考えを追いやった。同時に、んん、という呻き声が聞こえる。イギリスが寝返りをうったところだった。月明かりに照らされて垣間見える寝顔はやはり、とても幸せそうだった。あれだけ愚痴を零せば気も楽になっただろう。・・・もっとも、実のところ彼は今、本当に幸せなのだ。あの愛しい子供の側にいられて。愚痴だって、幸福だからこその愚痴ばかりだった。――そう思うと、無邪気な寝顔が少し、憎らしくも見えてくる。あれだけ話を聞いたのだから、少しくらいの褒美があったって良いだろうに。 少し考えた後、フランスは先ほど一瞬思って、すぐに掻き消したそのことを、実行することにした。これは延々と聞かされたあの惚気への報復なのだ、それ以上でもそれ以下でもない。何の意味もない。そう自分に言い聞かせながら、そっと、そっと、 (頼むから、起きるなよ) くちづけに、彼が驚いて起きてしまったら、困るから。 (頼むから、気づかないでくれ) そうして彼がもしも、万が一、想いに気づいてしまっては、困るから。 甘く、柔らかな感触を一瞬だけ感じて、それから、同じようにそっと、そっと、くちびるを離した。葡萄酒の香りがした。彼は、起きなかった。それどころか、全く反応を示さなかった。それは確かにフランスが望んだことであったはずなのに、何故か少しだけ寂しくなって。フランスはちょっとだけ、わらった。 Don't notice it, please... ********* 前書いた同じシチュのアメリカのは子供っぽくて衝動的だったけど、仏は大人だからそんなことしないヨ。その代わり色々理屈をつけないと何もできないんじゃないかなたぶん。みたいなネタです。そして悲しいときフランスは笑うひとだといいなという妄想。 ということで、リク主の方に捧げます。米英←仏なんですが・・・あんまり嫉妬してなくてごめんなさい・・・!(土下座) 個人的に片思いな仏大好きなので書いててすごく面白かったです(酷)(あ、もちろんラブラブなのも好きです) 今回はリクエスト、本当にありがとうございました!これからもどうぞよろしくお願いします!! |