こいつらは本当どうにかした方がいいと思う。思いながら、スペインはフランスの持ってきたワインを口に含んだ。もくもくと立ち込める紫煙の匂い、フランスの香水の匂い。喉を通っていく酒の香り。目の前には賭けを続ける、イギリスとフランス。


スペインととフランスとイギリスとでトランプを始めたのはようやっと陽がくれた、という頃だった。イギリスも入れていいか?フランスが聞いた瞬間に止めておくべきだった。そのときはイギリスからふんだくってやれるならそれも良いと思って何も言わなかったのだが、今スペインはそう思ったあのときの自分を殺したいほどだった。金をふんだくる作戦は失敗に終わり、そして今や雑用に追われている。考えてみれば、トランプだなんていかにもあの狡賢いイギリスが得意そうなものではないか。そしてこういうときのフランスも、決して信じてはならない。笑っているくせに、何を考えているかさっぱりなのだ。わかっていたはずだったのに。スペインが有り金を全て二人に取られ、「じゃあお前、ちょっと働け」と、そうイギリスに命令されてから、既に数時間が経っていた。その間彼らが何をしていたか?延々とトランプだ。延々と勝負だ。そういえばちょっと前まで彼らは世界を巻き込んで延々と勝負をしていたのだった。だからって、なにもこんなところ――ここは国際会議の会場のホテルだ――まで来てまでやらないでほしい。スペインはワインを運んだり、つまみを作ったりである。踏んだり蹴ったりとはまさにこれのことだ。


今は、一番シンプルな形の賭けをしているらしく、イギリスがそろえられたトランプから一枚を引くところだった。強いカードを引いたほうが勝ちというわけだ。今のところ勝負は互角らしく、テーブルに向かい合って座るふたりの傍らには同じくらいのたかさに乱雑に重ねられたユーロ札とポンド札。イギリスは煙草をふかしながら、手袋に包まれた指先を、山の上にそっと置いた。それから、視線をちょっと、フランスにやる。スーツ姿で脚を組み、煙草を持つ方の肘はテーブルについている。酷く嫌味っぽい視線に、しかしフランスは、楽しそうな表情で応えた。ひけよ、とフランスに仕草で示されたイギリスの、指がすっとカードを一枚挟んで、引き抜く。イギリスはカードをちらりと見てから、伏せてテーブルに置いた。同時にフランスが、そういえば、と口を開いた。


「そういえば、――煙草、もらえるか?」


イギリスは一瞬、真意を見透かそうとフランスの目をじっと見たが、直ぐに首をかしげて馬鹿にしたように微笑んだ。


「お前、今度は煙草も買えなくなったのか?」
「いや、お前がどんな不味いものを吸ってるのか、試してみたいと思ってな」
「・・・・・・」


数時間前からふたりの応酬はずっとこんな感じだ。聞いている方がイライラするほどの嫌味の応酬。これに耐えている自分はどう考えても偉すぎる。スペインは思いながら、ワインの残りを飲み干した。しばらくの沈黙の後、何を思ったか、イギリスはそれまで飲んでいた煙草を灰皿に押し付けた。それからおもむろに立ち上がると、テーブル越しに、フランスの胸倉を掴みあげる。そのまましばらく、フランスを見下ろす。フランスはイギリスの行動を予測していたようだった。そしてイギリスは、フランスが予想していた、ということを、予想していたようだった。フランスは、乱暴な所作のイギリスと対照的に、中途半端にテーブルに乗り出したイギリスの、幼い曲線を描く頬を、女にするように優しく撫でた。イギリスが一番、嫌がるやり方だ。そしてそのまま、――


(まーた、これかい・・・)


スペインはこっそりため息を吐いた。もはや見慣れ切ってしまった情景から、一応は目をそらすが、視界の端には貪りあうようにキスを交わす二人。イギリスがバランスを崩して、足をテーブルにガン、叩きつけるように乗せた。普通に煙草を差し出せばいいものを。思っても、ふたりには通じないだろう。煙草なんて、おそらくどうでもいいのだ。なんでもいいから、勝負したいだけなのだ。そして、相手を出し抜きたいだけなのだ。けれどもそろそろトランプには飽きてきた、よって今度はこれ、という流れなのだろう。それにしても、本当この二人はどうにかした方が良い。今更どうしようもないのかもしれないが。なにしろイギリスはともかく、フランスにもやめる気がないのだから――あんな海賊と好き好んで勝負したがるフランスの、気が本当に知れない。


無理な体勢なものだから、角度を変えた際にテーブルに身体があたり、衝撃で札が何枚かと、先ほどイギリスが引いたカードがひらひらと床に落ちた。ちょうどスペインの側に滑ってきたカードを拾うと、スペードのエース。どこまでも忌々しいやつやな。思ってそっと二人の方を向くと、フランスがくちづけたままこちらを見て、ひとつ、ウィンクをした。


(出てけ、ってか)


スペインはやれやれ、とひとつ息を吐いてから、ゆるゆると立ち上がってドアへと向った。せめてものし返しに、机から滑り落ちたポンド札を拾い上げて、部屋から出る。紫煙の立ち込めていた部屋から出ると、急に視界が開けたような気がした。ドアが閉まる直前に、テーブルからワイングラスやら札束やらなにやらが落ちるけたたましい音と、身体かなにかがテーブルの板に叩きつけられる鈍い音、続いて布の裂ける音がしたが、スペインは深く考えないことにした。










The J oker's wild






























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雰囲気で読んでください。ほら0●7(隠す意味なし)とかであるじゃないですか、煙もくもくしてるとこで賭けするシーン。そんな雰囲気で。・・・すみません(土下座)。ウィンクするフランス→退出するスペインな流れが書いててすごい楽しかったです。ていうかスペインがちょっとかわいそうですね。すみません。好きだよ親分!英はスペインには隠そうともしないと思います。日本には隠したがると思います。あと、米にも隠すと思います。

ことこさまに捧げます!(反転でお願いします)


あたたかいお言葉や、感想、本当にありがとうございました!狂喜乱舞しました(←)。薔薇プレイいいですよね!まぁ書く度胸がないわけですが・・・そのうち書きたいです(やめれ)。今回はスペイン視点にしてみました。秘密の〜ともまた違う感じの仏英になりました。日視点と西視点では同じ二人も違うように見えるかな、と思いまして・・・。こんなものですが、お気に召せば幸いです。今回は本当にありがとうございました!