カフェパラレルです。アーサーはオーナー兼ウェイター。フランシスがお菓子をつくります。














「おい、起きやがれワイン野郎」


今日もまた、フランシスの朝はこの眉毛野郎の色気もへったくれもない声から始まった。眠気覚めやらぬ目を擦りながら時計を見れば、眠りについてから三時間しか経っていない。この重労働に、ストライキをしたいのはやまやまだが、そうするとそのツケが結局自分に廻ってくるほどの経営状態な店なものだから、結局ストをするわけにもいかない。フランシスはうう、と唸りながら、それでもソファから這い出た。そう、ソファなのだ。この重労働の癖に、寝るのはソファなのだ。ベッドを買い足してくれと言えないこともないが、実際のところ同居しているわけではないし、あえて言うなら居候状態なので、黙殺されるのが関の山だろう。まぁいい。交代制だから今日はベッドで眠れる。


昨日は着の身着のまま寝たものだから、服はくしゃくしゃになっていた。これは、フランシスの美意識的には全くもって許せないことなのだが、昨日は服よりも重要なことがあったのだから仕方ない。つまり、新作ケーキの試作品づくりだ。この時期だけ、フランシスはアーサーの家、というか店に泊めてもらっている(店の隣にアーサーの住居スペースがあるのだ)。いつからこういう風になったのかは忘れてしまったのだが、いつの間にかこういうことになっていた。へろへろになってバイクを運転するのも危険だろうし、これ自体は悪くない。たまに飲んだりできるし。けれど、問題は朝食なのだ。彼の作る料理では朝食はかなりマシなほうであるが、それでもフランシスからすれば、唸らざるを得ない出来のことの方が多い。できることならフランシス自ら作りたいのだが、深夜にまで及ぶ創作活動の後、朝食をつくる元気はさすがに、ない。


ダイニングへと向うと、テーブルの上で少し焦げたベーコン(しかしこのくらいならアーサーにしてみれば傑作だ!)と、生っぽすぎるスクランブルエッグと、多少焼きすぎて真黒のトーストが待っていた。とりあえず食べられそうなものから、ということで、右手にあった紅茶を手に取る。一口飲んで、ため息を吐いた。あの重労働の後にこんなものを食わされる身にもなってほしい。好きでやっているといえばそれまでだが。


向かいに座ったアーサーはきっちりと服を着こんで背筋を伸ばし、例のトーストをかじっている。なんで食事をするだけの姿がこんなに嫌味っぽいのか、誰か説明してほしい。思いながら眺めていると、んだよ、とにらまれた。なんでもない、と目をそらす。にしても大の男ふたりが、向かい合ってスバラシキ朝食。なかなかシュールな光景だ。


「・・・今日は何曜だ?」


ふたりしてもくもくとその朝食を食べていると、ぽつりとアーサーが尋ねた。あー、水曜?答えると、げ、とアーサーがいやな顔をした。水曜といえば、


「あー、あのマダムたちか」


アーサーははぁ、と盛大なため息を吐いて、最後に残ったスクランブルエッグを食べ始めた。毎週水曜に、右から順に、ルイ・ヴィトン、フェンディ、コーチのバッグを持った老婦人(といえば聞こえはいいがようはオバサン)三人組が判を押したようにきっちりと3時にやってくるのだ。老婦人は三人してアーサー目当て。「本当に、かぁわいいわ」「やっぱりおしりね、お し り!」「何いってんのよぉ、腰でしょ?」とかまぁ、そんな感じの会話をしながらブレンド3つで閉店時間まで粘り、働くアーサーをじっくりと鑑賞して帰っていく。


「いいじゃん、熱心なお前のファンだぜ?愛してやれよ」


やる気もなくそう言うと、お前にもいるだろ、と返された。


「ああ、でもあっちのマダムの方が若いぜ。あのマダムトリオは右から58、59、56だな」
「よくわかるな」
「まぁねー」
「ほめてる訳じゃねぇよ」


食べ終えたアーサーが席を立つ。洗い場にがしゃがしゃと皿を置いて、それから店へ繋がるドアの方へと歩いた。


「今日は俺がやる。あと昨日の洗濯物は仕舞っといたから」
「はいよー」


ドアがパタンを閉まる。毎日の日課である、店の掃除を始めるのだろう。しばらくすると、思ったとおりに掃き掃除をしているアーサーの、子供っぽい背中が、ちらちらとドアの細いガラスから見えた。最後に残ったベーコンを齧りながらその姿を眺める。すると気づいたアーサーがじろじろ見るな、と大声で叫んできた。別に見たくて見てんじゃねぇよ。他に見るものがないからだ。思ったけれど、そのベーコンが、結構良い焼け具合だったので、フランシスは黙る事にした。














English breakfast with you






























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Sweet sweet sweets の舞台裏的な、仏と英のお話。新作をつくるときだけ、と言っていますが、しょっちゅう品を変えているので半同居状態です。アメリカが出てくる続編、とか言ってたくせに、忘れたので(・・・)仏と英のお話になりました。英はきっと年上にもてると思う(笑)仏は逆に小さい女の子とかに好かれそう。おにいちゃーん!とか言ってかけ寄って来た女の子を抱きあげてあげて、そのママが「すみません・・・」とか言ったのを、「いやいやいいですよ」みたいに、ね!(妄想)あれ、内容と関係ないなこのあとがき。

というわけで、氷魚さまに捧げます。応援のお言葉、ありがとうございました!Sweet sweet sweetsの続編ということで、同居状態の仏英をかいてみました。ちなみに菊はそれを知っている設定です(笑)。リクエスト、ありがとうございました。これからもどうぞよろしくおねがいします!