見つけた!


バルコニーの方へ消える見覚えのある背中に、フランスの胸が高鳴った。先ほどから始まった花火ももうそろそろクライマックスか、という頃、ほぼ諦めかけてぶらぶらと歩いていたとき、それは視線に飛び込んできた。花火を下で見る人が多く大分減ったとはいえ、まだまだごったがえしている人ごみの中を縫いながら、彼の姿を目で追いかける。途中女性をぶつかってしまった。なかなかの美女であったのに、「悪いな、お嬢さん」としか声をかけられず、このチャンスをみすみす逃してまでイギリスを追いかける意味がフランスにもわからなかった。それでも、バルコニーへ。やっと彼とまともに勝負できる。そう思うと、信じられないくらいの興奮が沸き起こるのを、フランスは感じた。それを抑え抑え、バルコニーへとそっと入る。見れば、イギリスは外に広がる夜の海、そして花火を、眺めているところだった。間近に彼の姿を見るのは酷く久しぶりな気がした。――その後ろ姿を見た瞬間に、己の胸に、何故か奇妙な安心感が満ちたことに、やはりフランスは気づかなかった振りをした。


「・・・久しぶり」


バルコニーの中を歩みながらの挨拶に、イギリスがはじかれたようにこちらを向いた。その眸が、アルコールの所為か潤んでいるのが暗闇でもわかった。おまえ、と言ったくちびるが震える。とっさに彼は、視線をフランスの背後にやった。逃げ道を探しているのだろう。逃げるのが不可能だと悟った彼は、くそ、と悪態をついた。


「寂しかった?」


俺と話せなくて。フランスは何を言う間も持たせずに、バルコニーの端へと彼を追い詰めた。瞬間、花火が夜空に舞って、フランスとイギリスをちかちかと照らした。イギリスが忌々しそうに舌打ちをした音は、遅れてやってきた花火の音に掻き消された。


「・・・それはお前だろ」


逃げ場をなくした彼は、しかしそれでも勝気な笑みを浮かべて、反論する。ロシアが言ってたぞ、と、フランスを見上げた。


「お前だって俺から逃げ回ってたくせに・・・会ったら惚れちゃうからだろ?」
「誰も逃げてなんかいねぇよ。まぁ俺としてはお前の顔を見なくてすんで楽だったね」
「それは俺もだ。これの所為でせっかくのバカンスはめちゃめちゃけどな」
「じゃあやめればよかっただろ。そうすれば俺の不戦勝になった」
「そんなこと誰がさせるかよ」


言いながら、フランスは、思ったとおりに手堅い反応を示すイギリスに、満足感が胸に満ちるのを感じた。これだ。この息をつかせないような応酬。久しぶりの彼との会話は、憎たらしくもあり、同時に快さを誘うものでもあった。不思議な心地好さを感じながらフランスは、俺やっとわかったんだよ、と、言って、口角を上げた。


「・・・お前相手に言葉でいこうとするのは馬鹿だって」
「え?・・・っ」


轟音に消され、彼が、聞き取れなかった言葉に眉を顰め、動きを止めた合間に、いきなりキスをかましてやった。出来うる限り、激しく、まるで彼を食べ尽くすように。息を奪うような口付けと、対照的に酷く優しく、服の上から肌をなぞる指先に、イギリスが喉の奥で甘い呻き声をあげる。イギリスのからだの絶妙な感触は、久しぶりだった。変わってねぇな。思った瞬間、視界の端で花火が次々に夜空を彩るのがわかった。タイミングの良いそれに気をよくしたフランスは、更に深くくちづけて。二の腕を掴んだイギリスの両手に力が篭り、しかし、最初骨の軋む程強かった力は、だんだんに抜けていく。今この瞬間、彼よりも優位に立っている。思うと、口付け以上の快感が理性を溶かした。


ようやく息を開放すると、力無くくず折れたイギリスは――しかし、フランスを見上げて、暗闇の中、にぃ、と笑んだ。その反応に、またも愉悦がフランスに襲い掛かった。


「・・・いきなりそれがお前んとこの作法なのか?」


花火の光で伺えた彼の表情は、非難の言葉の割に、愉しそうだ。そうだ、そうこなくちゃ楽しくない。


「俺らの勝負にこれまでルールなんてなかっただろーが」


フランスの言葉にイギリスが目を丸くし、その後、確かに、と笑ったのが、舞い落ちる火花の所為ではっきりとわかる。


「――なぁ、」


熱い息をくちびるから漏らしたイギリスは、挑むようにフランスを見詰めた。


「俺がお前に惚れなくて、しかもお前を惚れさせたら、それは勿論俺の勝ちだよな」
「そりゃな。けど、それは難しいと思うぜ?」


お相手を誰だと思ってんだよ。言えば、イギリスは憎たらしく笑ってくちびるだけで、フランスにくちづけた。


「それは、わかんねーだろ?」


そしてもう一度、今度はありったけの熱を込めて、くちづけてくる。闘争心を燃やしに燃やすイギリスの、首に絡まる腕、その熱さが服越しでも伝わった。フランスはその宣戦布告に応じるように、イギリスの腰から背のラインを撫で上げる。一瞬くちびるが離れた拍子に交わった視線は、お互いの意図を見透かそうと鋭い。


「じゃ、ここから第二ラウンドってことで。もう逃げられねぇぞ」
「はっ、相手してもらってるってこと、忘れんなよ・・・いつだって逃げてやるから」


キスの合間、睦言の代わりに交わされたのは、またしても売り言葉に買い言葉だった。


誰もが花火に夢中になる夜、バルコニーの片隅で重なる影。


瞬間、この夏一番の花火が、まるで第二のゲームの開始を祝福するように、夜空に散った。











真夏のアバンチュール






























*********

おわらねーのかよ!って感じですね。いや、勝敗をつけたくなくって。残り一週間ふたりは部屋に篭って戦争です(←

ということで、長々とすみませんでした。連合国+雰囲気たっぷりの仏英、ということで、書かせていただきました!雰囲気は雰囲気でも安っぽい雰囲気がたっぷりみたいな感じに・・・(土下座)
個人的に、ロシアと中国が思いのほか楽しくて、ハマりました(笑)。新しい境地(?)をありがとうございました!!あと、途中のワガママ、ほんっとうすみませんでした。たくさんのご感想も・・・勇気リ○リンになりました。感謝ばっかりです。これからもどうぞよろしくお願いします!