押し倒された拍子に、ふわり、と目の前に垂れてきた金の髪が、暗闇の中ちょうどよく照明に煌めいたものだから、知らず知らずのうちにそれに手を伸ばしていた。指に一房を巻きつける。なめらかにやわらかい金色は、イギリスの指にしっとりと絡みついて、指を抜いてゆくと、はらはらと離れていった。何度も触れては離し、触れては離し、感触を確かめる。


「なに?」


突然のイギリスの行動に、フランスが問いかけてくる。独特の甘さを宿した、静かなその声をイギリスは無視し、指先で髪を弄り続けた。梳いて、巻き付けて、撫でる。これが、フランスの問い掛けに答えることなんかより、ずっと重要なことに思えたのだ。フランスはイギリスの指を振り払うでもなく、ただされるがままになっている。それを良いことに、イギリスは今度は両手で彼の髪を掻きあげた。手から溢れた金色が、重力に促されるままさらさらと零れ落ちる。すると、なにがおかしいのか、忍び笑いが降ってきた。


「羨ましい?」
「…全然」
「嘘つくなよ」


良いぜ、好きなだけ触って。得意げに見下ろしてくるブルーを、イギリスは思い切り睨み付けたけれど、フランスはまったくこたえた様子もなく、逆にイギリスの髪に触れてくる。そんなに羨ましいなら、お前もいつかみたいにまた伸ばせば?微笑。ふざけんな。思って、一発殴ろうとしたが、その前に額にキスが降りて来た。彼の髪が頬にさらりと触れる。くすぐったい。


「お前の髪、ちょっといたんでる」


低い声が言う。前髪に次いで、瞼にも唇が触れた。同時に、くしゃ、と髪を撫でられる。うるせぇよ、ほっとけ。言おうとしたけれど、ちょうどそうしようとした瞬間に、唇にくちづけられて言えなかった。彼の髪が、今度はこちらの鎖骨に落ちた。


この髪に、肌で触れているだけでは物足らなくなって、イギリスはフランスの顔を引き寄せた。驚いたのか、ちょっと瞳を見開いたフランスの、髪に唇を押し当てる。柔らかい。良い匂いがした。


「…積極的じゃん」


ちがう、といつもみたいに否定しようと思ったけれど、確かに積極的だったかもしれない、と思い直して、べつに、とだけ答えた。どうしたんだよ、うえてんの。下卑た台詞に、さすがに恥ずかしくなって、うるせぇ、と言いながら目が泳いでしまう。フランスがそこを見逃すような都合の良い性格をしているはずもなく、すぐに「ああ、図星」と言う納得したような声が返ってきた。イギリスは今度こそ、ちがう、と否定しようとして、しかし言う前に唇を塞がれた。


「…っ」


先程までの緩慢なそれとは違い、フランスの舌は性急だった。どうやらもうおしゃべりは終わり、と決めたらしい。人の話聞けよばか野郎、別にって言ってんだろ。そんなんじゃなくて、俺はただ。思ったけれど、このフランス野郎はこれで人の言い分など全く意に介さない男だ。もうちょっとだけ、ああしていたかったような気がしなくもなかったけれど、もう遅い。ほらだってもう、よくよく知ったあの感覚が、背骨を這い上がってきている。


このナルシスト野郎、こうなったらそのご自慢の髪、めちゃくちゃにしてやる。思ってイギリスは、キスを深めたフランスの髪を、両手で思いっきり掻き乱してやった。










髪を乱す


















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まさにYAOIイットセルフ・・・ イギーは兄さんの髪大好きですよ、っていう話のはずでした。
兄さんの髪は指をとりこにする髪に一票。